有名作家たちによる、源氏物語の九つの巻に基づく短編集。
源氏千年紀の記念企画なのか、顔ぶれが豪華。
読んだことのない作家さんのものもあるが、それぞれの書き手の個性を知ることができて楽しい。
割と原作に忠実なものもあれば、現代人に置き換えた、自由な発想によるものもある。
江国香織さんの「夕顔」。
原作や、これまでに出た現代語訳で読んできた巻でもある。
夕顔は「なよやか」な人、時にそれが「なよなよしている」と訳され、どこが魅力的なのかと思ってきた。
本作を読むと、夕顔という女性の肉付けがなされている。
少女のような語り口。
臆病で人が苦しそうなのを見ると悲しくなってしまう。
夜も怖いから嫌い。男性と接するのも本当は苦手で、楽しかった思い出だけを抱いて静かに暮らしていたいと願っている。
なるほど、こういう感じなのか、とちょっと納得。
玉鬘を主人公とする「蛍」、女三宮を語り手とする「柏木」は、どちらも光源氏の闇がよく見える。
桐野夏生の「柏木」では、女三宮が語り手であることにより、彼女が聡明過ぎる印象になる。
しかし、現代ではモラハラとなってしまうような、光源氏のパターナリズムが隠しようもなく炙りだされ、肌が泡立つ。
そん所そこらのホラー小説など太刀打ちできない怖さだ。
小池昌代の「浮舟」は幻想的な作品で、印象深い。
現代の、家族を持たず、孤独に生きてきた初老の女性が、どういうわけか源氏を読むことにはまる。
彼女の夢に出てくる浮く船舟。
それは炎に包まれながら、浮舟の物語を伝える。
二人の男性に望まれ、どちらも選ばない道を選んだ浮舟の物語を。
この舟は何のメタファーなんだろう。
いろいろなことを思わされる。
- 感想投稿日 : 2021年5月30日
- 読了日 : 2021年5月30日
- 本棚登録日 : 2021年5月30日
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