『智恵子抄』は、文字通り細君の高村智恵子に対する愛情を高らかに謳ふ一冊。智恵子の死までに書き溜めた詩や散文を一堂に集めたものであります。
智恵子は、光太郎と結婚後、現在でいふ統合失調症を患ひ、療養するも好転の兆しを見せることなく、息を引き取るのでした。最愛の人を亡くした光太郎も、しばらくは何も手に着かず、病人同様だつたらしい。本書所収「智恵子の半生」にも、その時の心境が実に正直に綴られてゐます。時には恥かしくなるほどに。
本音を言ひますと、中学生時に教科書で読んだ時は、それほど心に届かなかつたのでした。当然ですな。恋愛といふものを知らぬ餓鬼が読んでも、精精表面上の意味をなぞるくらゐのもの。
しかしかういふものは、わたくしのやうな莫迦でも、夫れなりの経験を積めば十二分に鑑賞できるのであります。事実、大人になつて再読した際には、涙なしには読めなかつたことを白状しておきませう。
本来なら、こんな詩集は邪道かも知れません。いはば惚気話を読者に読ませる訳ですからな。しかし、死後60年を経ても衰へぬ人気を鑑みれば、光太郎智恵子の二人だけの狭い世界の作品ではないといふことでせう。読者は、「光太郎は俺のことだ!」と自らに重ね合はせ、慰め、心を満たしてゐるのではありますまいか。
あへて「若い人」にではなく、人生経験をある程度積んだ人に、もう一度読み直してはどうでせうかと、お薦めするものであります。わたくしのやうに、涙するかもしれません。
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- 感想投稿日 : 2016年4月9日
- 読了日 : 2016年4月8日
- 本棚登録日 : 2016年4月9日
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