花神(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1976年9月1日発売)
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本棚登録 : 2069
感想 : 116
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3月中旬から読み始め、約1ヵ月半かけて上中下の3巻を読破。明治維新成立の2年後、主人公:村田蔵六(大村益次郎)は元薩摩藩士:海江田信義の刺客により人生の幕を下ろす。「竜馬がゆく」が幕末の表舞台を陽からに描いたものとすれば、本作品は陰から描いたように思える。事実、「竜馬がゆく」でも昨年の大河「龍馬伝」でも大村益次郎の名前は登場しない。一般的な認知度も低いだろう。
しかし本作品を読了し、日本陸軍の創始者である大村が明治維新の立役者の一人であることは充分に理解できた。出自が良かった訳ではなく、地方農村出身の村医師から様々な人との出会いによりいつのまにか大舞台に上がってきた人生というものも非常に面白かった。自身が「これだ」と見込んだ分野を極めることで、他の分野・畑での応用が可能であるという証明である。大村の場合、医学を極めて医師となり、医学書を読む必要性からオランダ語を極めることとなり、洋書の兵学書を読むことから兵学者となり、幕長戦争と戊辰戦争の実質的指揮者となる。
まさに驚きの転身であるが、私はこんな話が好きである。「この道、苦節○十年」というのも勿論尊敬に値するが、華麗なる転身に成功した話の方が夢が膨らむ。「不毛地帯(山崎豊子)」の主人公、壱岐正も大本営参謀から総合商社のトップに上り詰めた。
私自身、前職は某専門学校の講師をしており、そのコンテンツ(教授内容)を現在の保険実務の仕事に活かしているという経歴があるため、そんな話に共感を覚えるのかも知れない。また、現在の仕事が将来的に別の仕事や人生に活きてくるかもしれないと考えるとワクワクするではないか。(別に、具体的に転職を考えている訳ではないことを申し添える。念のため。)
そんな訳で、大村の数奇な人生を愉しんで読むことが出来た。ちなみに「花神」とは中国で「花咲か爺さん」という意味らしい。「時代に花を咲かせる爺さん」という意味でタイトルがついたとのこと。私はいまいちそのイメージは受け入れがたい気がするが(笑)。ともあれ、本作品は1977年の大河ドラマであり、総集編DVDで観てみたいものである。中村梅之助がどのように大村を演じたかが非常に興味がある。
本書巻末に収められた論評によると、本作品は「世に棲む日日(吉田松陰と高杉晋作が主役)」と姉妹関係にあるという。司馬作品はまだまだたくさん読みたい候補があるが、近いうちに「世に棲む日日」もチャレンジしたいものだ。「竜馬がゆく」「燃えよ剣」「酔って候」「花神」などとはまた少し違った角度から幕末史を楽しめるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説
感想投稿日 : 2011年6月4日
読了日 : 2011年3月12日
本棚登録日 : 2011年3月12日

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コメント 3件

ykeikoさんのコメント
2011/06/04

凄く納得のいくレビューでした。「竜馬がゆく」が陽、「花神」は陰との指摘は本当にその通りだと思います。

getdowntoさんのコメント
2011/06/04

ykeikoさん、初めての心温まるコメントをありがとうございました。ブクログ初心者の私にとって非常に嬉しいです。
今、司馬遼太郎先生の作品にはまっています。今後ともよろしくお願いします。

ykeikoさんのコメント
2011/06/05

色々コメント有難うございます。私も2カ月程前からブクログに本棚を置くようになり、取りあえず本を登録し、時間を見つけて少しずつレビューを入れている次第です。一通り終わったら特に印象深い本に関しては、takagidさんのような長いレビューを入れ直したいと思っています。

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