家族八景 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1975年3月3日発売)
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筒井さんの『家族八景』。人の心を読める超能力者・火田七瀬が主人公で、のちに『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』と三部作になった、最初の小説。
「○○八景」というのは日本三景などと同様に、風光明媚な八つの場所という意味。小説だと太宰治の『東京八景』が有名か。
『家族八景』は八つの短編で、主人公の七瀬が「家政婦は見た!」のように八つの家庭を巡るお話。

ただ筒井さんなので、この場合の「八景」はけして良い意味ではなく風刺、ブラックユーモア。人の心が読めるから、エロでグロテスクなドロドロとした感情が七瀬にはだだ漏れで、それが地の文で表現される。
だから私は大好きだけど、そういうのが苦手な方にはあまりお薦めしない。『時をかける少女』は中学生向けのジュブナイルだけど、『家族八景』は対象年齢がもう少し上の中間小説。
でも、私が高校生の頃に『時計じかけのオレンジ』や『その男、凶暴につき』を観てたように、まかり間違って手に取って欲しい。新潮文庫だし、現行版の表紙はファンタジーっぽくて可愛くておしゃれ。勘違いすれば良いと思うよ!

この小説は連載が1970〜71年、単行本化が1972年。超能力ものとしては『幻魔大戦』より後で、ユリゲラーのすこし前ぐらいの時期。スティーヴンキングの『キャリー』が1974年で、その数年前。
筒井さんは心理学SFなので、この作品もそういう話。それと芸術、美学も学ばれていたそうで、画家の話がある(のちの『エディプスの恋人』も画家の話)。

家族の話で思いつく『家族ゲーム』や『積木くずし』などは80年代初頭の作品で、『家族八景』はその10年ほど前。
年代順に色んな映画を観ていると、政治思想の社会的な話から学校、家庭の話とだんだん小さくなっていく。90年代は「こころの時代」で人間の心の中の話、さらに小さくなっていく流れを感じる(エヴァ最終話とかね)。
70年代初頭、「表面上は平和で愛情が溢れるように演じている家族の仮面(ペルソナ)を剥がす」小説を、筒井さんはすでに描いていたんだなあ…と驚かされる。

『家族八景』と似たような雰囲気をもつ作品を昔に読んだ気がするけど、それがなんだったかはっきりと思い出せない。ジャンプ連載の『アウターゾーン』だったか、高橋留美子の人魚シリーズ、藤子A先生の『笑ゥせぇるすまん』、諸星大二郎のゼピッタシリーズ(1974年〜)……?

七瀬は主人公だけれど、彼女は私がよく言う「神様ポジション」、狂言回し的なキャラクター。(若者が主人公の場合、青春映画などだと成長するけど、この話の中で特に成長しない。変化せず状況を俯瞰しているキャラを神様ポジションと勝手に呼んでいる)
1972年と時期の近い映画、『女囚さそり 第41雑居房』のレビューでもほぼ似たようなことを書いた。

というわけでこれは七瀬本人の話ではないので、続編の展開は「七瀬の成長物語」で、恋愛や処女喪失をするんだろうなという予想がつく。

私の中の七瀬のイメージは、先に書いたさそりの梶芽衣子さんなんだけど、梶さんって日活時代の若い頃よりも、すこし歳とった頃の方が美人だと感じる。
梶さんのさそりシリーズの後を受けて製作されたのが『聖獣学園』『新女囚さそり』だから、ドラマ版で七瀬を多岐川裕美が演じていたのは納得。鬼平のおまさと久栄ですね。

解説は植草甚一さんで、東京新聞で当時『中間小説時評』という連載をされていたそうです。植草さんのレコードコレクションを買い取ったのがタモさんで、筒井さんやタモさんと言えば『全日本冷し中華愛好会』。『ジャズ大名』にもタモさんが出ていたなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年8月18日
読了日 : 2020年8月5日
本棚登録日 : 2020年8月1日

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