岸辺の旅 [DVD]

監督 : 黒沢清 
出演 : 深津絵里  浅野忠信  小松政夫  村岡希美  奥貫薫  赤堀雅秋  蒼井優 
  • ポニーキャニオン
3.11
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本棚登録 : 194
感想 : 48
3

「人間は二度死ぬ。肉体が滅びた時と、みんなに忘れ去られた時だ。」という言葉がある(私が知ったのは松田優作からで、原典は不明)。この映画はそれを具現化したものだと私は受け止めたのだけど、他の方のレビューをワクワクしつつ期待して読んだら、「記憶」について触れてる方がいないようだった。残念。

『岸辺の旅』、まあまあでした。黒沢清という人はカルト映画作家で、昔から映画ファンには人気があったと思う。持ち味は不条理さ、その独特な表現だから、ホラーやサスペンスを作ると「ズレ」ていてとても怖い。それでメジャーな存在になったと思うけど、今作は一応「ヒューマンドラマ」だそうで、不条理、つまり「ルールがない」作風だと、普通に面白いものや感動できるものを期待している一般観客層にはウケないと思う。ブクログの★評価がほぼ3.0なのがその証拠。2.9以下の作品はたいがいつまらない。私もこの作品ではちっとも感動できなかった。元より、本当に観客を感動させたいのか、黒沢清の中に言いたいことがあったのかが疑問で、なんでこういう作品を作ったのかが謎。単純に表現をしたいだけなんとちゃう?カルト映画、カルト作家ってその人のファンは好きだと思うけど、私はそういうカルトに入信するつもりはない。好きな映画監督はたくさんいるけど、面白い作品は面白いし、つまらない作品はつまらないだけです。

と、悪口のような感じになったけど、黒沢清のインタビューをちょいちょい見てたので、ご本人についてはむしろ好きです。

話は最初に戻って、「記憶」について。
この映画がブレていると思う理由は、主人公の深津絵里は死んだ夫のことを忘れたくないし、忘れる必要もないのに、「悲しみを手放して再生する話」のようになってるからかも。話の方向性が違うものを最後に提示されるから、まとまってない。
とにかくルールがない。各キャラクターが消える理由が不明。小松政夫についてはまったく不明で、ぼやかされている。死因は殺害されたか、パソコンには妻との関係性でどういう意味があるのか。

中華料理屋、蒼井優、ラストのおっさんについてはわりと一貫してると思う。ラストのおっさんが一番悲しい。息子がおっさんを見て「知らないおじさん」って言うもの……だから、消える理由は他の人に忘れ去られた時だと思ったけど、そういう一貫した法則性はみられず。

蒼井優のシーン、深っちゃんが頑張ってこれたのはライバルという名の同志がいたからで、ライバルも夫のことを「忘れられない」んだろうなと思っていたのに……ということだと思う。そして、自分が大切に守っていた夫婦生活なんてつまらないことなんだと……。あそこは不条理さが引っかかるところで、むしろ良かったと思う。『スパイの妻』よりもこっちの蒼井優の方が100倍怖かった。

この作品の特徴である「幽霊が実体化する」ことについて。実体化つまり肉体があるということで、これについては序盤から一貫して、深っちゃん演じる主人公は肉体関係を求めている。この点は良かった。『スパイの妻』でも「寂しいかどうか」「裏も表もありません」のセリフで肉体関係が仄めかされていて引っかかったので、そこと通じる。

失踪した男(の肉体)をずっと忘れられない女の話を男性作家が描くと、男のエゴやナルシシズムにどうしてもなりやすい。が、これは原作が『夏の庭 The Friends』の湯本香樹実さんなんですよね。

深っちゃんと浅野忠信はどちらも良かった。浅野忠信は最近よく父親役で見るようになったけど、とても良い。深っちゃんも良い女優さんですね(ただ、今の朝ドラはちょっと……制作陣は何を考えとるんや?)。特に顔が好きなタイプではないからファンまでは行かないけれど、声質、セリフの言い方、語尾の感じ……私にとってはそれらが心地よいことに今回気づけた。同郷なせいもあるかもしれない。
深っちゃんの着てる、緑色のスカート、グレーのカーディガン、ほぼ同じ色のグレーのバラクータG4がすごく可愛くて良かったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドラマ
感想投稿日 : 2022年1月14日
読了日 : 2022年1月12日
本棚登録日 : 2022年1月12日

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