知識ゼロからの肖像画入門

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  • 幻冬舎 (2015年7月8日発売)
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17世紀バロック時代以降、西洋絵画ではジャンルごとに明確な格付けがなされた。歴史画、肖像画、風俗画、風景画、静物画という順である。プロテスタントの国では、歴史画の需要は余り多くなかったようだ。
「中世のキリスト教世界では、肖像文化は廃れていたが、15世紀に入、り経済発展に伴いゆとりが生まれた社会で、人々が人間・個人に対しての関心を強めた結果、人間性の昇格が起こり、個人を写実的に表した肖像文化が再生したのです」とあり、まずはネーデルランドで四分の三正面像が生まれたのである。それまでは、真横か真正面で、真正面はキリストやマリア・神だったのだ。デューラーは、真正面の自画像を描いているが、自分をキリストになぞらえているのだ。髪の毛やひげの具合など、まるっきりキリストに見える。
「ヒーロー・ヒロインの肖像画」「美男・美女の肖像画」「ヌードの肖像画」「巨匠の肖像画」「ミステリアスな肖像画」というタイトルのもと、たくさんの肖像画が紹介されており、それが描かれた時代背景や画家自身の思惑など、詳しく書かれていて非常に面白い。
フェルメールの有名な「真珠の耳飾りの少女」はトロニーと呼ばれる歴史画のためのキャラクター研究のための人物画がジャンルとして独立したものの一つだそうだ。モデルが誰かということを追求するのは余り意味がないらしい。この絵の少女を描いた映画があったけどね。
フーケの「ムランの聖母子」は、フランス王シャルル7世の寵姫アニエス・ソレルがモデルで、この聖母が片方の乳房をむき出しにしているように、アニエスは美しい自分の乳房の形が自慢で宮廷内で片方の乳房を出したまま歩いていたそうだ。あらまあ、どんなに形がよかったんだろう。
とまあエピソード満載で、大変愉しい本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美術書 
感想投稿日 : 2020年3月6日
読了日 : 2020年3月7日
本棚登録日 : 2020年3月6日

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