長編小説、とあるが連作短編と言ったほうが正しいかもしれない。
片岡作品の中では「なにもないから愛にしましょう」と1位2位を争うほど何度も読み返している、とても気に入っている作品。
片岡義男の恋愛小説はたぶん小学生のときから読んでいる(小学生から中学生にかけて、やたら主人公が30、40代の恋愛小説ばかり読んでいたなぁ)。
高校でしばらく同世代の小説ばかり読んでいたけど、最近また読み返している。
本作の登場人物は「彼」と「彼女」。片岡作品では珍しく名前がない。
どこまでも魅惑的な彼女と、そんな彼女に心底感銘し賞賛する彼。2人だけで世界は完結する。
街で、デパートの試着室で、飛行機の座席で、プールで、そしてホテルの部屋で、彼女は様々な形でオート・エロティシズム(この表現いいね)を試し、彼に披露する。
彼は一貫して見る立場であり、けして彼女に触れようとはしない。
彼女の行為は次第に完成度を増し、そのたびに彼は彼女に引き込まれていく…
作品内で、彼女は自分の目標を「理知的で性的な女」と言う。
これ昔からすごく同感なんだよね。うちの価値観に影響してる。
あ、あと引用がうまく使えるのって理知的だよね。
それと感心したのが喫茶店のシーンでのこの会話。
「午後三時だ」
「午後三時を少し過ぎたばかりです」
「おやつの時間だ」
「あなたは私のおやつですか」
こんなセリフがとっさに出てくるようになりたいね。
それにうなずいて「僕はきみのおやつだ。エスプレッソを注文すると、ひとつ添えられて出て来る」って答える人もなかなかいないと思うが(笑)
はじめに連作短編といったけど、それぞれの話(出来事)は後半に向けた大きな流れを持つ。
最後2,3章の盛り上がりはもの凄い。
終わりの章できちんと締め括られている。
ほんと、2人だけの世界が完結している。完成品。
- 感想投稿日 : 2008年8月18日
- 本棚登録日 : 2008年8月18日
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