2泊3日の猫のレンタルを綴った7つの短編集
特別に賢い猫だけがなれるブランケット・キャッツは、馴染みの毛布と共に様々な家族のもとを訪れる。
人懐っこい犬ではなく、気ままでツンデレな猫というのがポイントだ。猫の行動がミステリアスで、解釈が如何様にもとれるのがまた奥深い。
私は特に
「嫌われ者のブランケット・キャット」と
「旅に出たブランケット・キャット」
が印象的だった。
中でも「旅に出たブランケット・キャット」は、猫目線でその生態や本能的な部分が描かれていて人間との関係性も含めて色々と考えさせられた。
全7章の関連性は無いが、各章其々に描かれたブランケット・キャットがレンタルした人の繊細な心の機微に触れていく様子は、切なくも心温かく心に響いた。
余談だが、ペットショップの傍らで猫レンタル業を営む店長がロボットの様で、塩対応なのがやや気になった。
きっとこの個性的な店長に纏わる話もあるんだろう・・・と読み進めたが、そこは予想に反して膨らまなかった。
ところで、現実には「猫レンタル」も「犬レンタル」もビジネスとして存在しているのをご存じだろうか。
飼いたくても飼えない環境の人
日常に少しの癒しが欲しい人
需要は確かにあるだろう・・・
けれど、そもそも私は「レンタル」という言葉を生き物に使うのに違和感を感じてしまう。そのうちサブスクとか言い出すんじゃないだろうか・・・
このビジネスは、人間の欲を満たすためのものであって、動物にとっては大きな負担になるのは疑いようが無い。
作中では、レンタル猫はペットショップで売れ残り、殺処分を逃れる道という一面も垣間見れた。
例えそうであっても、人間の命の尊さには敏感なのに、動物の命の尊さは何故人間目線でしか考えられないのだろうかと、やるせない気持ちになった。それで救われる命もあるならば、せめて動物の命の尊厳も考えられる感受性は誰しも持っていて欲しいと願ってやまない。
本作ではペットレンタルというビジネスの側面については、読者に解釈を委ねている。レンタル業の店長を、敢えて能面の様なキャラクターで描いた作者の意図する所が、読後ジワジワと迫って来るようだった。
重松清さん、恐るべしだ。
- 感想投稿日 : 2023年12月28日
- 読了日 : 2023年12月28日
- 本棚登録日 : 2023年12月21日
みんなの感想をみる