女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年10月7日発売)
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本棚登録 : 9505
感想 : 780
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アカデミー賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」収録の短編集ということでハルキストではない私でも興味深く手に取った作品

読み始めて数分で、いつの間にか独特の世界観にするすると滑り込み没入感を感じさせる筆力は流石だった。なかなか目にしない「まえがき」からも作者らしさがびんびんと伝わって来た。

6編の短編はいずれも“女が去って行った”或いは“女のもとを去って行った”男のお話で、無機質で空虚な心理描写が際立っていた。確かに女性の場合だと必ずしもこうはならないよなぁと捉え方の違いが興味深い。

そして殆どの作品が突然に幕引きとなる。
明確な結末が用意されていないのが、良くも悪くも村上春樹さんなのだろう。
場所や設定や人物までも、全て仮想なのか?いや暗喩か?と多角的に捉えようと試みても答えがフワフワと掴みどころがない。

でも独特の文体で、選ばれた言葉が織りなす世界観、空気感が、深い森の中にいるようで心地よく中毒性を感じる方もいるだろう。
読者が想像し自分なりの理解と結末で余韻を楽しむ作品なので好き嫌いは分かれるだろうが、短編でこれ程の奥行きの深さを魅せられるのは素晴らしいと思った。



収録作品は下記6編
★は個人的に特に印象的だった作品

「ドライブ・マイ・カー」
亡くなった妻の不倫相手に近づき、妻への理解を深めようと試みる男の話。若い女性の専属ドライバー相手にその回想話を繰り広げていく設定だが、これを長編の映画にしてアカデミー受賞なのだから、間違いなく監督の意欲作なのだろう。

「イエスタデイ」
幼馴染と交際しているにも関わらず、浪人中に自分の友人に彼女との付き合いを勧める男の話。この主人公の木樽が良いキャラで際立っていた。
6編中では一番読みやすいお話だと思う。

「独立器官」★
独身貴族を謳歌し、複数の女性とスマートに同時交際をしていた52歳の美容整形外科医師が、ある女性に本気になってしまったお話。タイトルのネーミングセンスが抜群。

「シェエラザード」
“ハウス”に籠っていなくてはならない男と彼の元を訪れる専業主婦のお話。彼女の前世と、彼女が少女時代に恋した少年の家に侵入を繰り返した過去を語るお話。

「木野」★
妻の浮気現場に直面しそのまま家を出て離職し新たにバーを始めた男が主人公で、傷付き哀しむべき時にそれが出来なかった男の心が辿り着いた先のお話。

「女のいない男たち」
自死の道を選んだ元彼女が3人もいる男の話。その3人目の知らせは元彼女の夫より夜中に連絡を受けて唐突に知ることとなるのだが彼はどう受け止めるのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月26日
読了日 : 2024年2月26日
本棚登録日 : 2024年2月2日

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