レベル7(セブン) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1993年9月29日発売)
3.65
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本棚登録 : 19551
感想 : 1429
3

宮部みゆきの初期作。
単行本が刊行されたのは1990年、本当に初期の初期で、自分にとっては「魔術はささやく」「返事はいらない」とこの本の3冊が今手元に残っている中で一番昔に買った宮部作品です。

ネタばれあります。

思わせぶりなプロローグのあと、物語はいきなりサスペンスフルに始まります。
アパートの一室で目覚めた若い男女は、そこがどこか、自分が誰なのかを覚えていなかったのです。記憶を取り戻す手掛かりを求めて部屋を探していたら、見つかったものは大量の札束と拳銃でした…。

宮部みゆきってとにかくストーリーテリングが上手だと、初期作品から最近のものに至るまでずっと思っています。お話の先が気になって気になって仕方がない、物語がどうなるか早く知りたくて、途中を斜め読みや飛ばし読みをしてまで筋書きを追いたくなる、そんな作品をたくさん刊行してくれるものですから、買っては読み、読んでは買いとしているうちに、宮部みゆきの本がずいぶんたくさん本棚に並ぶようになりました。

ところで、その本棚に並んだうちの1冊を、何かの拍子に再読してみて、驚いたことがあります。内容を全然覚えていなかったのです。ストーリーが気になるあまり、先を急ぎすぎた弊害です。
そんなことがあったので、敢えて意識してじっくり再読をしています。

案の定この本も全く内容を覚えていませんでした。全然です。おかげで、初読のように楽しむことができました。怪我の功名ってやつですかね…w
とにかくストーリーの先が、先が、先が気になります。喪失した記憶の手がかりを追う若い2人と姿を消した年若い友人を追う未亡人。全く関係なく始まった2つの捜索劇は、やがてとある病院で交差します。
ようやく明かされる事件の全貌、手に汗握るアクションシーン。
さらに、最後の最後にあんな展開があって、ようやくプロローグの意味が分かります。

と、以上のとおり、意識的にゆっくり読んでようやくストーリーが頭に入りました。「魔術はささやく」と比べても、記憶喪失チームと友人行方不明チームの2組がそれぞれの捜査対象を求めて事態を動かしているのですから、面白さは2倍…までにはなっていませんが、それでもそれぞれのチームの奮闘っぷりを追いかけている間は楽しく物語を追うことができました。

ただし、ところどころに顔を出すご都合主義や取材不足が興を削ぎます。物語のキーになっている記憶のいじり方だとか「プロ」を雇って人を殺させる話だとか、目が見えなくなったり見えるようになったりする展開とか、初期作品に共通する短所ですが、設定や舞台が強引すぎるように思えてなりません。
特に、素人が探偵役をするのですが、どこの誰とも知らないその素人探偵に対して、聞き込みの相手がぺらぺらと個人情報や自分の勤務先の機密を話してしまう様子には、ご都合主義か、個人情報保護の重みが現在とは全然違う頃のお話であることを思い出してしまう、「古さ」か、その両方かを感じて、いずれであってもよいところではありません。
結構重要な登場人物がラストにしか登場しないのもちょっと不満です。その唐突っぷりは、初めて「機械仕掛けの神」なんて言葉を使って批判してみようと思ったほどです。いや、プロローグに確かに出てますが、あれを伏線って言うのは無理がありますって…。
もう一つ、時事問題がモチーフになっているのは、今再読するにはきついです。当時話題になっていた事件とその背景がある程度前提になっているので、事件をWikipediaで調べなければいけませんでした。

ああ、そう言えば、「パーフェクト・ブルー」から蓮見探偵事務所の蓮見加代子さんがゲスト(?)出演しています。でも、素人が捜索の進め方で途方に暮れているんだから、探偵事務所にお勤めの人が目の前に現れたら依頼しませんか?

そんな感じで、読めば読むほど気になるところが増えてきてしまう結果になりました。ストーリーの面白さだけをガ~ッと追っていく昔の読み方のほうが、初期作品には向いているのかもしれません…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宮部みゆき
感想投稿日 : 2020年4月2日
読了日 : 2020年4月2日
本棚登録日 : 1995年3月29日

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