かなり厚めの文庫本が全5巻の大部、三部構成になっていますが、2巻から第二部が始まります。
以下にネタバレがあるかもしれないので、いらんことを書いて間隔を空けておきます。
ブクログユーザーはみなさん読書好きだと思いますが、ブクログを使い始めるのと読書を始めるのが同時の人(「これからは読書を趣味にしてみよう、趣味にするんだから、PCを利用してつけて読書記録をつけてみよう」みたいな)はいないでしょう。
では、みなさん「ブクログ以前」の本をどうしているのか、フォローしている範囲を観察すると、これまで読んだ本や手元にある本とは関係なく好きな本、★5の本、読みたい本を登録するブクログ中心派、メディアとしての本にはあまり思い入れを持たず、ブクログ以後の本は本棚登録してレビューを(簡単に)書いて、場合によっては売っちゃう、だからブクログ以前に読んだ本は手元にないことも多く、内容もあまり覚えていない、という断舎利派と、ブクログ以前に使っていたWebサービスからレビューを移行し、ブクログ以前から手元にあった大量の本も登録するというビブリオマニア派の3派閥があるように思えます。
自分はもちろんビブリオマニア派。
ブクログ以前の本がまだ3千冊くらいあるなかから、何冊かを選んでブクログに登録し、再読してレビューすることを続けています。
その「登録再読レビュー」作業で、最初に手をつけたのが宮部みゆきでした。
ブクログ以前で手元にある著作はすべて登録を済ませましたので再読し、レビューしている最中です。
この「模倣犯」はその登録・再読レビューの中での最大の山場でした。ボリュームと内容のしんどさに再読開始になかなか取り掛かれませんでしたが、ひとたび始めたらやっぱり夢中になってしまいました。
このまま5巻まで再読レビューが終われば宮部みゆきの再読も一山越えた感じがします。残り5冊の再読と4冊(かな?)の積読を読了したら、次は誰の本を再読しようかな?
と、これだけ空ければ大丈夫でしょうか。
2巻3巻の2冊を使って語られる第二部は、1巻の衝撃のラストで名前が挙がった栗橋浩美(ヒロミ)と高井和明(カズ)の物語。ヒロミが悪、カズが善の悪vs善の戦いが繰り広げられます。
2巻では特にヒロミに焦点が当てられ、冒頭は1巻末の急展開とは一転、やや静かな感じで始まります。1巻のラストが一刻も早く次の展開を見たくなるものだったので、この辺、初読のときはだいぶ飛ばし読みをしてしまっていたところです。
しかし、物語は徐々に加速し、彼が道を踏み外すまでの経緯とその後の所業が語られるに至って、その嗜虐的な行為が描写されます。全5巻の中でもっとも読むのがしんどいところで、先を知りたい気持ちと見るに耐えない気持ちに挟み撃ちされながらようやく読み終えることができました。
ヒロミは今で言う「無敵の人」や「オトナの引きこもり」に近いキャラクターです。あるきっかけから女の子たちを攫って陵辱して殺すという鬼畜の所業にはまり込んだ彼は、女の子たちをだますためになりすました「あちら側」本当のエリートである人間に(自分すらだませるほど)なり切り、いったん本性を現した後はサディスティックに振る舞うことで日頃自分が感じている不全感を麻痺させる、そんな日々を送っています。彼のエピソードは時間軸を前後しながら、彼がそんな所業に入り込んだきっかけと1巻で有馬義夫をいたぶり、振り回した出来事を犯人側から見た様子が描かれています。
彼をスポイルした生育環境は、ヒロミ視点で語られていることを割り引いても相当異常なものです。今では「毒親」なる言葉ができて説明がしやすくなりましたが、そんな毒親の影響下で過ごした彼が如何にして最初の一歩を踏み出してしまったかを宮部みゆきの筆力でしんねりと繰り返し描かれているうちに、何だか自分まで一緒になって毒されているような気になってきます。
自分の性格から、この状況を何とか改善できないかという読み方をどうしてもしてしまうのですが、読めば読むほどどうしようもないデッドロック感があります。栗橋家内での王としての地位を確立した彼に対し両親はもはや金を貢ぐだけの存在で歯止めにはなりません。そして、ヒロミと社会との唯一の窓口であるピースはヒロミに輪をかけて異常です。
そんな状況での感情の暴発により、ヒロミは初めて岸田明美と梶浦舞衣を手にかけ、我に返って助けを求めた先がよりによってそのピースでした。警察に捕まるか、精神の均衡を崩して自滅するか、いずれにしてもカタストロフィ以外にその暴走を止める手立てはないように思えます。
そこに係わってくるのが第二部の主人公、のろまの「カズ」。
善代表の彼はヒロミに馬鹿にされ、たかられながらなぜかヒロミの元から去ることなく、それどころか、ヒロミと事件との関わりに気付きつつも、単に警察に告発するのではなく、ヒロミを何とか救い上げようとしている様子さえうかがえます。
ヒロミの人生には、目を背けたくなるものであっても、先がどうなったか見届けたくなる魔力がある一方で、カズの人生、中卒で親のやっている蕎麦屋を継ぐべく、そこで働いている、彼女もいなければ、テレビでドラマを見るのが楽しみだけの人生は、ヒロミとのかかわりがなければ平凡で退屈なもので、有馬義男が属するのとまったく同じ「善」の陣営の日常は全体としてそんなものです。読者は彼の言動を歯痒く思い、彼の障害(おそらくディスレクシア/識字障害)に同情し、妹や両親やテニス部の先生にちょっと意見したくなっているうちに、すっかり彼に感情移入していることに気づくでしょう。一般的な人の共感とは正反対の側にいるヒロミと並行して語られるのだから尚更です。
彼らの関係がどうなっていくのか、果たしてカズの想いは届くのか、固唾を呑みながら、結末はもう提示されているのですが、それでもその結末は「どういうこと」なのか、気になって仕方がありません。…やはり再読は正解でした。再読でなければやっぱり飛ばし読みをしてしまっていたような気がします。
そして、徐々に明らかになってくる核心の人物「ピース」。「純粋な悪」を口にしているものの、どうもずいぶん線が細いように見受けられます。てか、自分の妄想に夢中になって自慢したがるとか、これも最近では適当な言葉があります。「厨二病」です…。
最後に。
被害者代表の塚田真一が哀れです。もしああしていたら、もしあんなことを口にしなかったら…。
彼に減刑の嘆願書名をしろと迫る樋口めぐみは最近の事件でもよく見る「被害者にも落ち度があった」の意見そのものです。
こうやって見ていると、やっぱり世間というものの恐ろしさを感じます。作者もそんな視点を入れたくて塚田真一を創造したのでしょうけれど、ただ、全体の中で彼のエピソードが浮いているように思ってしまうのは私だけではないのではないでしょうか。
ここに来て「要素を入れすぎる」宮部みゆきの悪いところがちょっと顔を出してしまったように思えてなりません。
- 感想投稿日 : 2019年7月23日
- 読了日 : 2019年7月23日
- 本棚登録日 : 2004年5月5日
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