存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)

  • 集英社 (1998年11月20日発売)
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 重いはずの人間、重くなれるはずの人間、重くあっていいはずの人間が、軽いということがわかってしまったときの絶望感。女も軽い。ただのたまったものを吐き出す痰壺であり、ペニスでもって女の物語の歴史の一部になって、自己満足するためにやってるのだ。その女の過去に同意のうえペニスを挿入しましたという事実をつくることを目的としており、それにより世のほかの人間へのマウンティングへもつながる。女性をセフレかやり捨てする場合、痰壺・攻略自慢・ものとして扱うことで自分がものでないように思えるための道具・フォローの言葉を入れることで自分のコミュニケーション力を再確認する、みたいなものである。そして歴史も軽く、国は簡単に滅ぶ。一部の人間によって思い通りにもなるし、消え去りもする。行き当たりばったりで、国も歴史も、再現性もないし、科学的もでもない。一番重い存在でも軽い存在でもなく、存在らしい存在だったのは飼っていた犬だけだった。
 タイからカンボジア国境に行って、地雷を踏んだカメラマンが飛び散ってドイツ人男性歌手とアメリカ人女優と白い旗に血の雨が降る場面とかが印象的だったが、特に良かったのは以下の文。

P336
フランツは急に大行進が終わりにきたということを感じた。ヨーロッパのまわりには静けさの国境がはりめぐらされ、大行進がそこで行われている空間は惑星の真ん中の小さな舞台以外の何物でもない。かつて舞台のまわりにおしかけた群衆はとっくに顔を他所に向け、大行進は孤独で観客なしで進行している。そうだ、とフランツは自分にいう。世界の関心が失われようとも、大行進はさらに進んでいく。しかし、それは神経質になり、熱狂的になる。昨日はベトナムを占領するアメリカ人に反対し、今日はカンボジアを占領するベトナムに反対、昨日はイスラエルを支持し、今日はパレスチナ人を支持し、昨日はキューバを支持、明日はキューバに反対、そして、常にアメリカに反対する。あるときは大量殺戮に反対。あるときは大量殺戮を支持。ヨーロッパは行進を続け、次々とおこる事件のリズムに遅れないように、その一つも逃さないように、歩みをますます速め、ついに大行進は突進する人たちの行進となり、舞台はだんだん小さくなって、ある日寸法のない単なる点となるのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2015年11月23日
読了日 : 2015年11月23日
本棚登録日 : 2015年11月23日

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