秘密結社の世界史 (平凡社新書 315)

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  • 平凡社 (2006年3月11日発売)
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 古代から現代まで、時代別に数々の「秘密結社」の盛衰を概観しながら、なぜ人は秘密結社や陰謀説に引き付けられるのかを考察したもの。
 正直、個別具体的な色々な団体の歴史にはそんなに興味が持てなかったが、もっと一般的に人はなぜ秘密に引き付けられるのか、とか「インターネットは、カルトや秘密結社をきわめてつくりやすい状況を準備した」(p.221)みたいな分析はとても面白かった。
 たぶんどんな組織でも、ある情報を握っている、ということが管理する側であり、上層部であり、その情報をどう操作するかという権利を握るということが重要なのだろう、ということが、裏付けられた。この考えはおれの前の職場で確信に至った考えだが、つい半年くらい前も同僚に「まだ詳しくは言えないんだけど、実は今こうこうこうなっていてさあ」とベラベラ何かの情報の断片を喋られたが、それはたぶんこの人(=同僚)は相手(=おれ)よりも優位な立場であることを誇示しているだけなんじゃないのか、とか考える。やっぱり「あなたにはまだ秘密にします」ということをあからさまに言われると、あんまりいい気はしない。(しかもその情報は後で知ってみると別に大したことじゃなかったりした上に、そもそもおれに言ったところで別に何かの害になることをおれがしたりしない(というかできない)ことくらいあなたも知っているでしょうに、とか色々その人に対して思ってしまう…)で、本文では「狩猟民は農耕民に対して秘密が少ないと言われる。なぜなら守るべきものが多くないからだ。失うものが少ないのだ。秘密が少ないと儀式も簡単で開放的になる。」(p.35)という部分がなるほどと思った。やっぱりまず守るものがあって、秘密が生まれる、というのは分かりやすい。「狩猟民や遊牧民に比べて、土地という永続的なものに依存する農耕民は、より大きな秘密にこだわることになる。」(p.38)ということ。さらに裏返せば「秘密は見えるものでなければならない。そうでなければ秘密は意味や力を持たない。なぜ見えなければならないかといえば、秘密はなにかを守るためのものだからである。」(p.38)そこから「仮面」の話になるが、あの世とこの世のものを結ぶ仕掛けであった仮面が、ただの顔を隠すカモフラージュになってしまった、という話も面白かった。あとはよく聞く「テンプル騎士団」について、「テンプル騎士団は銀行の役割を果した」(p.60)というのが、また興味深い。「中世では、教会や修道会は、すべて銀行の役割を果していた。寄進だけでなく、財産を一時、預かってもらう寄託といった形があった。修道院の金庫に預けておけば安全であった。」(pp.60-1)というのは知らなかった。そして、前に読んだ『フリーメイソン』の本でもあった気がするが、合理的なものが神秘的なものに結びつく、という話があったが、そういう意外なもの同士の結びつきという点で、「知の独占は権力に関わるから、ある秘密性を帯びる。そして入るには入社式が必要なのである。」(p.71)という部分で、要するに大学やアカデミーにそういう秘密結社と関わりをもつ、という話が面白かった。「魔法から科学へ、というように、中世の錬金術から近代の科学が生れたことを考えれば、アカデミーと秘密結社の関係も特に不思議ではないかもしれない。」(同)らしい。最後に、中世の「医者」について、「医学においては、内海と外科医が差別さsれていた。内科医は古い伝統医学に固執し、それを唯一のものとして、外科医を一段低いものとしていた。外科は床屋やサンバ、民間の治療師などに属していた。」(p.75)だそうだ。今では区別なく「医者」とひとくくりにする中に、そこまで扱いの違うものが含まれている、というのが驚きだし、日本語では内科と外科、という体の内か外か、という分類をしただけだが、英語ではそもそもsurgeonとphysician(米ではinternist)とか全然違う単語を使う、というあたりとも関係しているのかもしれない、と思った。英語を教える時にはこういう捉え方の違い、というのも教えておくべきだろう、とも思った。(19/03/27)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2019年3月27日
読了日 : 2019年3月27日
本棚登録日 : 2019年3月27日

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