鹿男あをによし

著者 :
  • 幻冬舎 (2007年4月1日発売)
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本棚登録 : 5012
感想 : 955
5

面白かった!
『鴨川ホルモー』の場合は主題に入るまでの設定説明が長くてなかなか入り込めないという欠点があったけど、この小説の場合はそれがない。

小出しに、堀田という女子学生はなぜ主人公を敵視するのか?→主人公の行動は監視されているのか?→鹿が喋った・・!? という風に謎が展開していくのでぐいぐい読んでいって気付いたら核心、という感じ。

ちなみに物語としては、神経質で人間関係にも問題を抱えている主人公がゼミから追い出されて、短期の間だけ教師として奈良にやってくる。
そこで喋る鹿と遭遇し、"運び番"として選ばれたと通告される。"目"=サンカクを狐の使いから受け取らなければ、この国は滅びるのだと。頻繁に起こる地震はその予兆なのだと鹿は言う。
突拍子もない話を信じない主人公だったが、徐々に自分の体が鹿に変わっていくのを鏡で目の当たりにし、サンカク探しに奔走し始める・・。といった感じです。

今こうやってあらすじを書こうとしてやっと気付いたんだけど(遅い)、この物語の主人公「おれ」には名前がない。
いつも先生、先生、と呼ばれている。出てくる先生は一人じゃないのに、お見事だな、と思ってしまった。

仕掛けも、伏線の張り方も構成もちょうどよく、読みやすいようによく練られた本だと思う。
何より鹿がかわいい。国道にまごつく鹿がかわいい。ポッキー好きな鹿がかわいい。おっさん声はかわいくない。けど、面白い。
テンポよくわくわくするような展開で物語が進んでいくのに、最後には気がついたら涙が流れていた。
自分でも「えっ?」と思ったんだけれど、どうも、ヒメを思う鹿の気持ちに何か感じるところがあったらしい。

マキメさんのすごいな、と思うところは、まずこのぶっ飛んだ設定力。と、妄想力。喋る鹿と狐とネズミと、それからサンカクと、日本の歴史をこんな風に繋げるなんて考えてみることもなかった。
それから、バリエーション。
前作と同じく舞台は京都なのに、ほとんど重なるところがない。まあ、普通では考えられないような超常現象が起こっている、という点では同じなんだけれど、全然違う物語になっている。
どこかの森見某さんとは大違いである。

さすが話題になるだけある。
マキメさんの本をとりあえず全部読破したい気分になった。
堀田が多部ちゃんだったというドラマ版のキャストは実に絶妙!絶妙にちょっとだけ魚顔だけど、かわいくて凛としているだろうなあ、と思う。
ドラマ見てればよかったかな・・イロモノのイメージが強くて。
確かにイロモノなんだけど、荒唐無稽なイロモノではないので敬遠するともったいない作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 青春小説
感想投稿日 : 2010年7月14日
読了日 : 2010年7月14日
本棚登録日 : 2010年7月14日

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