陰謀史観(新潮新書)

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  • 新潮社 (2012年4月15日発売)
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感想 : 4
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 陰謀論に根拠はないことを認識するのはとても重要。明治期から現代まで日本で噂される陰謀論を、その論者が根拠とするものが虚構であることを説明している。

 筆者の主張には大いに同意するが、一方で気になる点もある。そのような陰謀を信じてしまって行動した結果として歴史が動いてしまったことはあるのではないかということである。例えば近衛文麿の言説や、コミンテルンの陰謀論を切って捨てている点である。陰謀を実行する人たちはそのものは誇大妄想主義者だろうが、ヴェノナにあるような陰謀の実行者に接していた人たちがどのようなリアクションをとってしまったかは考察の余地があるのではないだろうか。

 例えば筆者が切って捨てた近衛文麿の発言は、自分自身がゾルゲ事件に巻き込まれて政策判断を誤ったと考えていたためだとすれば、やはり陰謀が歴史を動かすこともあるといって差し支えないとも思える。
 ただ、同時に重要なのはそのような陰謀は結果からみて過大評価されているにすぎないということで、だれかの思惑による行動がずばり実現したような大層な代物ではないということであろう。
 
 陰謀論の恐ろしさは陰謀そのものではなく、実際に権力をもつ意思決定者がそのような陰謀が存在すると信じてしまって判断を誤ることにある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年8月28日
読了日 : 2022年8月28日
本棚登録日 : 2022年8月2日

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