シュガ-タイム (中公文庫 お 51-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (1994年4月1日発売)
3.38
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本棚登録 : 3442
感想 : 326
4

小川洋子 著

小川洋子さんはとても好きな作家さんで、
少し前に久々に読んだ『まぶた』も、やはり良作で面白かったけど、短編小説だったのが物足りなく、
また長編小説を読みたいと思い手にした本作(まだ読んでなかったのか…?と思った。)
題名の『シュガータイム』のように、
サラサラと溶けてゆくように、あっという間に読んでしまった。青春の淡い記憶のような小説で、今度は物足りなさは感じなかった、小説としては完成されていたから。
ただ、小川洋子さんにとってもまだ淡いような感覚のこの物語りは青春時代を振り返って、
これからの人生がまだ続いてゆくことを示唆しているような小説だった。

林真理子さんの解説が際どくも面白く本作の内容を言い当ててる気がする。
ただ、解説の最後の方で…
「わたしたちのシュガータイムにも、終わりがあるっていうことね」「砂糖菓子みたいにもろいから…中略…そういう種類のものじゃないかなぁ」という締めくくりはあきらかに余計である。ときっぱり切り捨てている、
(私も実は感じてた違和感はその辺りか…?)と思って読んでいると、
この最初の長編小説を書いてた頃、小川洋子は自分の”ヘン”にまだ腹をくくってなかったにちがいない。と続く、
これは意地悪な感想ではなくて、この時のまだ若い小川洋子の中にある”ヘン”が開花することへの期待と小川洋子への愛情の裏返しの言葉のように感じられました。
脱線したけれど、本作はまたしても、冒頭から心を掻き立てられる。
不思議で奇妙な世界に引き摺り込まれる感覚が、妙に感じるのに、淡々とさりげなく語りつつ、描写は細かくいつも魅力的だ。

奇妙な事態や症状に巻き込まれて不安になるのに、今はとりあえず、特に問題なさそうだからと甘んじている訳ではないが、とにかく今はこの状況のまま突き進み溶けこんで状況を見極めようとしている。
しかし、本当はこのままでいいはずはないと自分で受け止め分かっているから、その時が訪れるのを見逃さないようにしたいと思ってることも事実で、
その感覚が読んでいる方にも少し安心感を与えてくれる。
異常な食欲も変で不安ではあるが、美味しいと感じてどんどん食べる感覚やスーパーに陳列する食べ物を手に取って料理したり食べたりすることに、こちらも、その美味しさが伝わってきて(@ ̄ρ ̄@)悪い気はしないどころか心地よい気分にさえなる(^^;;笑
人の体や奇妙で過剰なものについても、それよりもその者が持つ一点の美しさに魅了されて、その他のことはとりたてて騒ぐようなことじゃない気持ちにすり替わる。
奇妙な事柄も、この世にあるのは当たり前の事で、ある意味、其れは人の人生に於ける中のひとつの症例に過ぎないように、よくあることじゃないとも思えてしまう。
よくあることじゃない!そんなことで済まされない!と思うこと自体、誰彼なしにあるのではないだろうか?そんな気分になった。
哀しみもさめざめと泣く心の内を哀しみの色で鮮明に表現しているところが、小川洋子さんの描く世界の好きなところだと思う。

まばたきの美しい小さな弟のことを読んでいると、かなり前に読んだ
『猫を抱いて象と泳ぐ』の本を思い出した。
あの小説は、上手く言葉に出来ないけれど、とても哀しみの色が濃過ぎて胸に痛くて涙が溢れて読後も暫く泣いた。
本作は悲しくて見過ごせないような哀しみの色合いのものと飄々とした明るい部分と溶け合った青春時代の甘酸っぱい気持ちを感じることが出来た。
暗い気持ちを引き摺らずに、清々しい気分で乗り越えられた作品だったと思います。

読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月27日
本棚登録日 : 2022年2月26日

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