蓮の数式 (中公文庫 と 33-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2018年1月23日発売)
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感想 : 40
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夫と義母に苦しめられながらも十年間不妊治療を続けてきた妻。その苦しみがやがて「事件」を引き起こし、彼女はとあるきっかけで出会っていた青年と逃避行に出ることになる、という物語。

最初から最後までどろりどろりとした展開で、主人公も青年も夫も誰もかれもが一癖あり過ぎて、簡単に感情移入を許さない「翳」をまとっている。だから例えば酷い目に遭って逃げている主人公にだって「可哀想」とだけ思うことができない部分があって、どう考えたって未来のない行動をしていくのをただ眺めていくしかできない。その無力感を抱かせる人々の物語を、けれど作者のよどみない筆致で読まされてしまう。苦しいと、楽しいことなどないとわかっている物語を最後まで負わせる力がある。素直に凄い、と感じるばかりでした。

惹かれ合ってその先に地獄しかないとわかっていても、それでもともに歩もうとする二人。妻を自身の所有物として完全に疑わずに行動できる男。善意を振りまいて正義を疑わない女。その正義に怯えてついには自らを罪人にした女。

業が業を呼び、人と人のわかりあえなさが痛烈に描かれていて、つらくてたまらないお話。けれど、おそらく、見たくないと顔を背けている人の一面であることも間違いはないのだろう。だから、興味を持って読んでしまえるのだろう。
そう、真正面から人のいやらしさに挑んだお話だと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年5月15日
読了日 : 2019年5月12日
本棚登録日 : 2019年5月15日

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