夢だったアイドルになれて、グループで一心に夢の武道館ライブへ向かって頑張る日々。特典商法、握手会、CDの複数買い、写真誌スキャンダル。諸々の荒波を乗り越えて、武道館へ立てるのか…
アイドルって素敵!頑張る私たち!と全面肯定したような青春小説なのかしら(それならそれで別にいいし)と思って読んでみたら、かなり痛切に「アイドル」を選択した十代の少女の等身大の物語が踏み込んで描かれていて、読みがいがありました。痛々しくて時折残酷さが顔を出す青春物は、作者はやっぱり巧いです。
モチーフとなった騒動などを思い出してみると、ほんとうに「幸せな姿を見たいのか、不幸せを見たいのか」「自分たちより上の幸せを得ているアイドルは許せないのか」という言葉のリアリティが迫ります。一個人の言葉と有名人の言葉が同一線上でたたかうこともできる世の中は、本来あるべき壁を見失わせ、正しい距離感を測れなくなっているようにも思うのです。
だんだんと少女の取る選択が見えてくる終盤、けれど彼女の選択は正しいものだったと納得させられる深い心情の描写がとても細やかでよかったです。
ずっと変わってなかった感情が、いつのまにか禁止されていた。変わっていったのは周りなのに、非難の矢面に立たされるのは少女本人。矛盾でしかないのに、それがまかりとおるのが、芸能界。
おそろしいところだと思いました。
けれどもっと怖いことに、それでも戻りたいとも思える魅力をも含むのですよね…。
なんだ魔界はここにあったのか、なんて思ったのでした。
- 感想投稿日 : 2017年2月2日
- 読了日 : 2017年2月1日
- 本棚登録日 : 2017年2月2日
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