「空の拳」の後日談。文芸編集者としての仕事が忙しくなりボクシングから遠ざかっていた空也が、ふとしたきっかけでまたボクシングに関わっていくことになる。悪役路線をつづけている立花、ぽっちゃり小学生のノンちゃん、無敗の新人岸本…それぞれにとってのボクシングとその人生を綿密に描く物語。
正直言って、前作を読んでいると後半特に辛い。時の人だった立花が、落ちぶれるとまではいわないけれど、明らかに中心から外れていくさま、そして彼が呑み込まれていた闇の姿。唯一無二だと思っていた頼りの綱が、突然化け物に変わっていたという恐怖。
それはなにもボクシングに限った話ではなくて、友達や恋人との齟齬、仕事の行き違いなど、突然それまでの親密性がぱたりと憎悪に入れ替わる瞬間はだれにだって訪れる。だからか、彼の陥った状況にあまりにぞっとさせられたのです。
そして容赦のないその描写がつづいても、彼にかかわる人々のあたたかさ(無論その逆もみっちり描かれてはいますが)、ボクシングそのものの魅力、けして悪いことばかりではないという側面も描かれていて、あまりにどんよりさせられるわけでもありません。
そういった意味で、前作を含めてこの二作は、ボクシング小説というより、ボクシングにかかわった人々の物語、人間を描いた物語だと思うのです。だから、すかっとするスポーツ物を求めると、うん?と感じるかもしれないですね。
無敗の王者として描かれた岸本がなぜそんなにうつろなキャラクタとして描かれているのか気にかかりますし、蒼介が空也のメモをもとに立花の物語に着手する日が来るのかと妄想したりしますが、きっと彼らの物語はこれで終わりなのでしょう。
立花が、空也がうつくしい光を一瞬捉えたというシーンの印象を残したまま、そっと閉じられていった本編のかたちがこれ以上なく完璧だと、そう感じたからです。
- 感想投稿日 : 2016年12月18日
- 読了日 : 2016年12月17日
- 本棚登録日 : 2016年12月18日
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