死刑絶対肯定論: 無期懲役囚の主張 (新潮新書 373)

著者 :
  • 新潮社 (2010年7月16日発売)
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服役中の無期懲役囚であるという著者が、長期受刑者の現状から刑罰のあり方について考察している。

著者の主張は、長期服役囚はほぼ反省・更生とは無縁の日々を過ごしており、現状の刑は十分とはいえないという問題提起に始まる。社会復帰をさせるのであれば十分な教育制度と環境を整える必要がある一方で、長期服役囚の多くはそのパーソナリティにそもそもの問題がある点を指摘する。さらに罪刑均衡の原則に照らせば、殺人を犯した者が殺されることなく生き永らえていること自体がバランスを欠いており、被害者の命・生存権を軽視し、被害者家族等の関係者の心情を無視したものであると断じている。

私は、この主張に大いに納得できる。よほどの事情がない限り、殺人犯はその命をもって罪を償う他ないと考えている。でなければ世の秩序は保たれないのではないか。また、著者もたびたび触れているが、自己の欲求のために人の命を奪うような人間を永久に隔離する、特別予防としての死刑の必要性はあると思っている。ただ、執行猶予つき死刑という案については、自己愛が強い殺人者にとっては逃げ道を用意するだけのような気がする。

さて、本書を読み進めるうちに気になったのは、「著者は本当に服役中の人物なのだろうか?」ということである。というのも、あまりに塀の中の描写が客観的なのだ。完全に自分だけが別次元にあって、他の受刑者を傍観しながら考察しているように感じて仕方がない。外の世界とは相当に断絶された社会にあって、さらにここまで身を離して考えることができるものなのだろうか? 私としては、著者は刑務官などの職員なのではないかと疑っているくらいである。さすがに罪になるのでこの線はないと思うが・・・。

また、出版社がつけたのであろう本書の刺激的なタイトルは、やや強すぎるきらいがある。著者は死刑賛成論をぶちまけたいという意図を中心にして本書を著したのではなく、罪と刑罰のバランスが悪いことと、受刑者を社会復帰させるためのシステムの不備を説いているのだ。その一環として死刑について論じているのである。このタイトルとのミスマッチはいただけない。商業主義的になりすぎるのは考え物だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年12月19日
読了日 : 2011年12月15日
本棚登録日 : 2011年12月15日

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