大学とは何か (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2011年7月21日発売)
3.70
  • (22)
  • (47)
  • (38)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 746
感想 : 69
4

大学の誕生と死、その再生と移植、増殖といった世界史的な把握により、大学とは何か、あるべき大学とはいかなるものか、を考察している。また、コミュニケーション・メディアとしての大学という場を考えるところや、リベラルアーツと専門知の関係についての新しい認識の地平を提供するところに本書の特色がある。
大学の歴史を世界史的に振り返ることにより、本書では、「中世的大学モデル」、国民国家を基盤とした「近代的大学モデル」、「帝国大学モデル」、近代的大学モデルから派生した「アメリカの大学モデル」といった大学の理念型を抽出する。そのうえで、国民国家の退潮が進む現代においては、国境を越えた普遍性への指向を持ち、横断的な知の再構造化をはかる場としての「ポスト中世的国家モデル」が大学のあるべき姿ではないかと主張している。そして、エリート主義の「教養」ではなく、専門知をつなぐリベラルアーツが重視されるべきとしている。
著者の考える「大学とは何か」という問いへの答えには、共感するところが多いが、その理念を、今、爆発的に増殖している大学のすべてに適用しようというのは無理があるのではないかと思う。G型大学、L型大学の議論はいきすぎとしても、今よりも数を絞った本来のあるべき姿の「大学」を目指す大学と、職業訓練に主眼を置いた大学(大学という名称を残すかどうかは検討が必要)への分化を軸に高等教育機関の再編成が必要ではないかという感想を持った。
本論とは外れるが、本書で紹介される大学の歴史におけるエピソードには興味深いものが多かった。例えば、東京大学の前身となりうる組織には、儒学を主とした大学本校、洋学を主とした大学南校、医学を主とした大学東校があったが、本来、メインとなるはずの大学本校は、儒学派と国学派の内部抗争で自滅して、大学南校と大学東校の合同だけで東京大学が誕生したといったエピソードといったものだ。
本書は大学について考えるうえで、なかなかの良書だと思うが、やや議論が観念的・理想論的に過ぎる気はした。本書の議論を実際の大学改革などに活かそうとすれば、もう一段階のブレイクダウンが必要だろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年6月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年6月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする