死神の浮力

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年7月30日発売)
3.84
  • (520)
  • (1107)
  • (685)
  • (92)
  • (16)
本棚登録 : 7174
感想 : 935

千葉さんという名前の死神が寿命の査定にやってくる。 前作の「死神の精度」は短編で、大きな時間の流れの中での話の繋がりが面白かったのだけど、今回は一冊丸々一つのお話で、それがまた実に読ませられるんですっ!.



伊坂さんの「死刑」に対する考え方を読んだことがあります。
で、この物語の根本に感じられるそのお気持ちに、うんうん、と頷くじゅんでした。

「死神の精度」よりバージョンアップした千葉さん自身の面白さと物語の展開の意外性には、まさに一気読み。蝉がシャワシャワと賑やかに鳴き騒ぐこの夏に読めてよかった、と暑さとは関係ない話だけど(だって千葉さんが出てくる時はいつだって雨だし。)ホントに思います。


千葉さんは永遠の時を生きる(と言っていいのかな)死神。
“情報部”からの指令を受け、寿命があと一週間だけ残る人に接触、本当に死ぬべき時期にあるかどうかを報告することを仕事としている。

だから千葉さんが出てきた、ということは、もうすぐ死ぬ人がいる、ということ。
過去にその死を覆したこともあるけれど、おおむね「可」の裁定をくだす彼のことは読者みなが知っているから、いわゆる“温情”には期待しないで読むことになっている、はず。

今回は、“良心を持たない人間”(25人に1人の割合でいるそうです。そんなに多いの?と慄いたり、案外そうかもね、と納得してみたり)に一人娘を殺された小説家・山野辺とその妻・美樹のところにやってきた千葉さんなのだけど、夫婦のどちらが死ぬのか、という方向に関心が行く前に、犯人の戦略に翻弄され、また、そこに人間界の常識に疎い割に歴史上のあれこれを見てきたように語る(だってほんとに見てきたんだもの、参勤交代とか、中世の瀉血とか)千葉さんが絡むことによって起こる笑いとかで、もう伊坂さんの掌の上。ただただ、犯人はどうなるの?この夫婦の復讐の思いは遂げられるの?、という気持ちに追い立てられ、せっせと読んでしまいました。

しかも、今回は、ここのところの手違い(死なせなくていい人を死なせたという失策ですね。)があったとかで、死神という名の調査員たち(そうなんです、死神は単数ではない。人一人が死ぬ時には必ずそれぞれに死神がいる、という設定。これがまた物語に別角度からの奥行を与えて、伊坂さん、巧い!なんだけど)に、還元キャンペーンを持ちかける情報部。
調査の結果、あと20年は死にませんよ、という太鼓判を押す権利を調査員に持たせる、という、うん、なんか変だけどそういうのもいいかもね、みたいな仕掛けを用意してあるのがね・・・・。




ネタばれです。






「マリアビートル」に出てきた怜悧but壊れた中学生・王子を思わせる犯人に、これ以上はないでしょう!といった罰を与え、その意外性にはホントに驚いたり、ひっそり喜んだり。


こんなことは軽々に言っていいのかどうか、でも、言ってしまうのだけど、私も山野辺夫妻の立場だったら、死刑よりもこんな罰の方がずっと気持ちに合うと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年8月12日
読了日 : 2013年8月12日
本棚登録日 : 2013年8月12日

みんなの感想をみる

コメント 2件

tsuzraさんのコメント
2013/08/12

じゅんさん、こんにちは(^ ^)

この本、今予約中です。
なのでネタばれの部分は読まないように気をつけて(注意喚起ありがとうございます!)
レビューを読みました。

おぉまた連作短編かと思っていましたら1つのお話。
面白そうですごく期待が高まってしまいます。
楽しみです。

じゅんさんのコメント
2013/08/12

tsuzura様
毎日暑いですね。お湯の中を歩いているような気分ですが、濃い影や青い空、西瓜や枝豆の美味しさが嬉しくて、夏っていいなぁ、なんて思っております。
そうなんですよ、千葉さんが長編小説に登場!
あの頓珍漢ぶりが妙に板に付いて、すとんと面白かったし、こうくるか!という話の展開に目を見張りました。(#^.^#) 早く図書館から来るといいですね。乞ご期待!でございます。(#^.^#)

ツイートする