こつぶちゃん物語 ~5か月しか生きることができなかった子鹿~

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冬の奈良公園、春日大社表参道南側に広がる飛火野の芝生の原を、おかあさんを探して彷徨う一頭の子鹿がいます。名前はこつぶちゃん。
観光客が触れたために人間の匂いがついてしまったのかもしれません。おかあさんはこの子を置いてどこかへ行ってしまい、姿を見せてはくれません。だから、お乳も満足に飲めず痩せっぽちで。毛繕いをしてもらえないから被毛はぼさぼさで。眠るときは枯葉のベッドに蹲って寒さを凌いで……。

「ねえ、おかあさん、
こつぶの こと きらいに なったの?
もう むかえに きてくれないの?」

みんなが心配して、見守って、でも、誰かの庇護なしで生きられない小さな命は、一月の寒さのなかで消えてしまいました。
こつぶちゃんは、なぜ5か月しか生きられなかったのでしょう。その原因を作ったのは、奈良公園を訪れるたくさんの観光客たちの悪気なくも心無い行動の連鎖だったのでしょうか?
これから、いつか、奈良公園を訪れる多くの人に知ってもらいたい、いくつもの約束がある。二度と、ひとりぼっちで死んでいく子鹿がうまれてこないように。


涙なしでは読めません。おかあさんとはぐれた子鹿が感じていたであろう、寂しさと心細さ、ひもじさと寒さに押しつぶされそうです。
どうしてこんなことが起きたのか。こつぶちゃんを、観光客の人たちが撫でてしまったのではないかと推測されています。人間が撫でて、子鹿に人間の匂いがついてしまう。すると鹿のお母さんは人間の匂いのする子を忌避し、育児放棄してしまう。動物によくみられる習性だと思います。
奈良公園で、他の場所でも、動物の子どもに安易に触れてはいけないのです。人間の匂いがする子は、親に見放されてしまいます。
そんな警鐘を、こつぶちゃんを見守った人たちが取り続けた写真と文章でつづった写真絵本。

奈良公園を訪れる人たちのマナーの向上も大切ですが、迎え入れる自治体の観光協会や公園の管理団体側も、人の心に訴えるだけでなく、公園への入場規則や条件を設ける(入園前に一定時間マナー講習を行う)とか、監視員を配置する、人間が入れるのは一定コースのみとする、多言語のルールブックを作成する。など、鹿を守る論理的・現実的な対策を設けなければいけないのではないでしょうか?
「公園の鹿は野生動物で、動物園でふれあえる動物とは違う」と言われても、「じゃあなんで鹿せんべい売ってるの?」って疑問が湧くばかりです。
何をされても物言えぬ鹿たちを、観光資源として消費される存在にはしないでほしいと願っています。

この写真絵本はISBNコード、Cコードを取っていますがバーコードがありません。一般の書店さんやAmazonなどネット書店での購入は難しいと思われます。
版元のCATパブリッシングさんのサイト(https://ecatpub.stores.jp/items/643e304d4c27e8003340fc14)で購入でき、売上の一部は「奈良の鹿愛護会」に寄付され、鹿を守る活動に使われるとのことです。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 作家名:な行(その他)
感想投稿日 : 2023年5月17日
本棚登録日 : 2023年5月17日

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