小川洋子らしい、ファンタジックな雰囲気と温もりに溢れた作品。
主人公である「僕」とブラフマンへの愛着が、そしてブラフマンの愛らしさが、幾多の表現を用いて存分に描かれる。
「僕」がそれを聞きたいと思いながらも全く鳴き声を発することのないブラフマンだが、「僕」が表情や仕草から読み取ったブラフマンの台詞が何度となく登場する。
その台詞の言葉つきが、何とも絶妙なのである。
自分も実家で犬を飼っているから、動物が、言葉を交わすことはできなくても、表情や仕草でもって、言葉を発する以上のものを伝えてくることをよく知っている。
だから、ブラフマンの台詞に表れている「ぼく」への従順さや、時に自信ありげ、誇らしげなところなどは、小さきものらしい可愛らしさがある。
ブラフマンが、結局何の動物なのか知りたいけれど、最後まで明かされることはない。
しかし、それがかえって物語のファンタジックな雰囲気を倍増させているようにも思う。
一方で、これも小川洋子らしいのだけれど、「娘」やレース編み職人など、登場人物に時折、いかにも人間らしい小さな棘というか毒というか、負の部分が見え隠れする。
ドラマチックな展開があるというわけではないけれど、タイトルがいつか来るクライマックスを予感させるから、残りページが少なくなるにつれて少しずつ緊張してくる。
特にペットを飼っている人、動物の好きな人にとっては、楽しめる作品なのではないだろうか。
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- 感想投稿日 : 2008年5月18日
- 本棚登録日 : 2008年5月18日
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