私的キリシタン探訪紀という副題が本書をひとことで的確に表しているが、丁寧な取材からなる日本におけるキリスト教史に著者の日常や感性が絶妙に織り交ぜられて、彼女の数年間が手にとるように感じられる。500ページの大作だが飽きさせることがない。すごい筆力だと思う。リュートの”まろりんまろりん”という音色、長崎やスペインの風景と人々の描写がいい。
[more]<blockquote>P209 昔はどれほどすばらしいことやひどいことがあろうと、ぽんぽん感情を切り替え、次に進んでいた。旅が下手になったというより、旅の必須条件である感情の切り替えが不得手になったのだ。旅の仕方に優劣などないけれど、あのころのような旅ができなくなったことだけは確かだった。
P237 人の認識は、物量に圧倒的に左右される。情報量が多いことを重視し、少ないものを無意識のうちに軽んじてしまう。「都崩れ」は情報量の少なさで存在が埋没してしまった一つの例と言える。
P287 キリスト教をファーストフードに例えるなら、日本に最も大きな影響を及ぼしたという点で、イエズス会はさしずめマクドナルドといったところだ。【中略】日本で起きた迫害には、日本側の思惑と各修道会の勢力争いが複雑に絡み合っている。それをできる限りひもといていきたいのだが、新しい味を広めたイエズス会の功績がとてつもなく大きいことを忘れるわけにはいかない。
P429 はるばる遠くの異国からやってきた、肌も瞳の色も異なるこのパードレに、なぜ自分の言葉が通じるのだろう。【中略】そしてパードレもまたキリシタンから影響を受けていた。【中略】彼らはみな地上から姿を消し、天上の星となった。私は彼らが最後に迎えた殉教という惨い結末ばかりにとらわれていた。しかし天に召される前、互いに心を通わせる幸福な瞬間があったはずだと、その時思えたのだった。</blockquote>
- 感想投稿日 : 2018年10月18日
- 読了日 : 2016年8月11日
- 本棚登録日 : 2018年10月18日
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