今回はいつもの京極堂シリーズに見られる「重層感」が
なかった。謎や人間関係が幾重にも重なって複雑怪奇で一見
あり得なさそうな事件を引き起こしているといういつもの
構図ではなく、ただ一点の謎からすべてが始まり、ただ一点
の謎にすべてが収斂していく。そういうお話である。そして
その一点には「死」というものが深く関わっている。この世
に生きるすべての人間が最も知りたいのに最も遠くにある死
というモノ。そして、最も遠くにあるにもかかわらず、人間
のすぐ近くで大きな口を開けて待ち受ける貪欲で底知れない
淵。まさにその死というものに向かって物語は突き進んで
いく。だからだろうか──この話は徹頭徹尾「悲しみ」と
いう基底音の上で語られている気がしてならない。死に
臨んでは、いかな探偵と言えども何かに「当たる」しかない
のである。神も仏も、幽霊も祟りも、何もかも──そんな
ものは全部嘘という京極堂の言葉を私は圧倒的に支持する。
もちろんそれは、嘘だから必要ではないという意味、では
ない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2019年7月14日
- 読了日 : 2006年1月23日
- 本棚登録日 : 2019年7月14日
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