西洋中世史の大家、堀米庸三氏による概説書。
西洋中世史は個人的にはとてもイメージが沸きにくい分野だった。
フランス、イギリス、ドイツ、イタリアといった現在の西欧諸国はすでに姿を現しながらも、一方で今日われわれが馴染みがある主権国家体制とは遥かに違う混沌とした政治体制が永年続いた時期。
一体全体、あの時代はどういう社会で、人々はどんな社会階層を構成し、誰が政治を動かしていたのか?
そんなぼんやりつかみどころのなかった西洋中世史の輪郭を与えてくれる一冊。
ゲルマン民族大移動からルネサンスの直前までの時代を、時系列に沿って追いながらも、ただ政治的出来事の羅列に留まらず、西洋世界の根本原理とも言うべき各世紀の大きな政治のうねり・変化を常に背景に語ってくれるので、変遷が分かりやすい。
特にカノッサの屈辱から教皇のバビロン捕囚に至るまでの法王権の盛衰は本当に面白かった。
ローマ的世界観の崩壊、ゲルマン民族移動の混乱期を経て、法王&封建貴族の時代から、徐々に国王と都市(商人)の時代に移っていくさまが実に立体的に描かれる。
そして、わずかにではあるが着実に力をつけていく農民たちの姿も描かれ、遠い将来近代ヨーロッパの政治を動かす社会階層の対立がこの時代から徐々に形成されていたことが手にとるように感じられる。
合間合間に、その時代の習俗や生活の描写も結構しっかり入れてくる。それが王侯貴族だけでない、商人や農民の動向が中世世界に明確な色付けを与えていたことをよりリアルに感じさせてくれる。
出版年が古く、人名表記が現在と異なる英語準拠の部分が多いのが注意が必要だが、西洋中世史の第一歩としてはとても良い一冊のように思われる。
- 感想投稿日 : 2016年8月11日
- 本棚登録日 : 2016年8月11日
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