写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2013年1月28日発売)
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2022年2月4日読了。

『東洲斎写楽』
寛永六年・1794年の5月から1795年の正月までの10ヶ月間のみ突如江戸に現れ、140数点もの作品を猛烈な勢いで作り上げ、そこから忽然と姿を消した謎多き1人の浮世絵師。

有名でも無名でも、他の絵師たちには生い立ちやエピソード・風貌・人柄など多かれ少なかれ何かしらの情報があるのに対して、写楽に限っては一切の情報が皆無である。

文献も残っていなければ、版下絵・肉筆画・練習の為の絵などの類も、写楽のものだけは何一つ発見されていない。

更なる謎として、『喜多川歌麿』や『葛飾北斎』を世に送り出し、江戸一番の版元として名を馳せた『蔦屋重三郎』が、無名の写楽を大抜擢し、黒雲母摺りという高価な材料を使った待遇でデビューさせている事。

写楽と顔を合わせていたであろう『蔦屋重三郎』や、蔦屋組と呼ばれた『喜多川歌麿』『葛飾北斎』『十返舎一九』『山東京伝』などの有名人達が何一つとして写楽について語っていない事。

『写楽=別人説』や『写楽は存在しなかったのではないか』など様々な議論がなされるが正体は謎のまま。


北斎の研究を専門としていた『佐藤貞三』は、とあるきっかけで一枚の浮世絵の肉筆画を手に入れる。
浮世絵とは基本的に美男美女・スターを描くものだが、その絵にはどう見ても美しくはない醜女が描かれていた。
しかし浮世絵史上、ただ一つの例外として醜女を描いて有名になった絵師が存在したのだ。
それこそがまさに『東洲斎写楽』

まさかこれは写楽の肉筆画なのか?
そうであればこれは時代を揺るがす大発見なのではないか?
そんな事を考えている折、とあるビルの回転ドアによる事故に巻き込まれ、大切な人を失ってしまう。
絶望の中、事故の原因究明の場で知り合う事になった機械工学の女性教授『片桐教授』と共に写楽の正体を探り始める。


初の島田荘司氏の作品。
構想20年という大作。
写楽という存在は知っていたし、『奴江戸兵衛』はとても有名な作品なので観た事もあったが、ここまで謎の多い人物だという事はまったく知らなかった。
作中で写楽の正体を著者の自説で明確にしているが、本当にそうなのではないかと思わせるほどリアル。
どこまでが史実に沿った話なのか分からないが、とても面白い説で、読み終わった後の感想としては実際そうであって欲しいとすら思ってしまった。

現代編と江戸編の2つの時代のストーリーから成り立っていて、現代編ではメインストーリーと写楽に関しての説明・推測が大筋。
江戸編では実際どのような事になっていたのかという答え合わせ的なストーリー展開だった。

無理に現代編のストーリーは必要ないんじゃないかと言う意見も多々あるようだが、ストーリーがいらないのであれば写楽に関しての文献や参考書でも読めばいいわけで、小説が読みたくてこの本を手に取った自分としてはストーリーありきで良かったのではないかと思う。
語りきれてないのは否めないが…。

江戸編は天保九年だの文政元年だの、年号がよく分からず苦手なので、初めのうちは読み辛さを感じたし、現代編は説明を丁寧にする為か同じ事を何度も解説していて読み辛さを感じて上巻は読むのがキツかった。

しかし、下巻からの江戸編の面白さは格別。
現代で言うところの敏腕プロデューサー『蔦屋重三郎』の漢気溢れる感じがたまらなくカッコいい。
現代編の主人公『佐藤貞三』が魅力が無さすぎて、本当の主人公は『蔦屋重三郎』である。
大手書店企業の『TSUTAYA』の名前の由来ともなっているらしく、『蔦重』の偉大さを感じた。

作中にオランダの話が頻繁に登場し、フェルメール・ゴッホ・レンブラントといった画家達の名前があがっていた。
自分の人生の中で唯一行った海外旅行がオランダであり、フェルメール・レンブラントの作品は美術館で鑑賞してきたが、アムステルダム国立美術館に写楽の浮世絵が展示されている事を全く知らなかった。
日本の誇りとして鑑賞して来なかった事を心から後悔。

著者が後書きでも書いていたが、上下巻合わせて900ページ以上あるのにページの都合上、伏線の回収がしきれていなかったり、書きたかった事を書ききれなかった事が心残りだそうで、続編を匂わせる発言をされていた。
しかし、この本が発売されて10年近くたっているがまだその兆候は見られないので期待は薄いのかもしれない。
実現するのであれば、読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年2月8日
読了日 : 2022年2月5日
本棚登録日 : 2022年1月29日

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