隠蔽捜査(新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2005年9月21日発売)
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本棚登録 : 445
感想 : 57
4

 日月恩作品に出てくる他の警察小説をたどって今野敏に行きついた。たまたまセールに出でいたのでKindle版で読んでみた。警察が舞台だから警察小説というのならその通りだけど、主役の警官が事件を解決するいわゆる警察小説と思ったら大違い。これはミステリですらない。ある個性的な警察官僚の生き方小説とでもいうか、まあそんなものだった。
 主人公の警察庁キャリヤ課長竜崎伸也が、食えないというか堅物というか冷徹というか際立った個性の持ち主で、性格的には好対照の幼ななじみである刑事部長の伊丹とともに連続殺人事件の後始末に奔走する。そこへ警察庁内の官僚たちの人間関係とか竜崎の家庭内の問題とかがからんでくるという筋書き。まあ何といっても竜崎個人を許容できるか否かが読者の評価に直結するのだろう。ぼくは嫌いではない。共感する部分も反発する部分もあるけど、前者の方がずっと多い。こういう筋の通し方は好みに合う。
 客観的に坦々と短文を積み重ねてゆく文体が特徴的で、それが竜崎の内面とうまくマッチして独特の感触を醸し出している。巧んで書いているとしたら大した技巧だ。だけど竜崎のみならず出てくる人間の会話などがすべてその調子なので、乾いたというか冷めたというか、人間的な血の通った感じが全然しない。家庭内の妻子の会話すらだ。いったいこの人たちは笑ったり泣いたりするのだろうかと不思議な気になる。モノトーンの無機質非現実世界を見せられているよう。よくいえば理性的というか。なので感動とか感涙とかにはほど遠い。まあ、熱い福井晴敏なんぞを読んだばかりなのでよけいそう感じるのかな。まったく対極の小説世界だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内ミステリ
感想投稿日 : 2013年2月21日
読了日 : 2013年2月19日
本棚登録日 : 2013年2月21日

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