ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)

著者 :
  • KADOKAWA (1976年10月13日発売)
3.62
  • (883)
  • (788)
  • (1695)
  • (191)
  • (63)
本棚登録 : 13622
感想 : 999
5

「読んだら精神に異常をきたす」と評される日本文学の奇譚。夢野久作自身も「読者を狂わせる」ことを目的として書いている。
横溝正史エッセイの落合信彦の対談で「この本読んでいると気が変になりますよねー、はっはっは」みたいなことを話していた。「気が変になる」という言葉はこの二人の対談から広まったのかな。
しかし私としては、上巻の半分の精神科博士の論文が理解できず^^; 本書で気が変になるのは、この論文が理解できる頭の良い人なんじゃなかろうか ^^;


※差別用語も本文のまま記載しています。
※※※※わりとネタバレ気味ですのでご了承ください※※※※

===
………ブウウーーーンンンーーーンンン………。
蜜蜂の唸るような音が耳に入り、青年はウスウスと目を覚ます。青年には自分に関する記憶が全くなかった。ここはどこか、自分は誰か、なぜここにいるのか。
すると隣の部屋から少女の声が響いてきた。少女は青年を「おにいさま」と呼び、切々と訴えてくる。
 おにいさま、私がおわかりになりませんか、婚約者のモヨ子です。結婚式前夜におにいさまに殺されましたが、こうして生き返ってきました。私のところに戻ってきてください。おにいさま、返事をしてください、返事を、へんじを………

やがて青年のもとに「九州帝国大学 精神科 若林鏡太郎(わかばやしきょうたろう)」と名乗る医師が現れる。若林博士は青年に、今日が大正15年11月20日でここは九州帝国大学精神科の第七号室だと伝える。
若林博士は、この精神科の前教授で一ヶ月前に自殺した正木敬之(まさきけいし)博士と共に精神病患者の研究をしていた。この正木教授はかなり奇妙奇天烈摩訶不思議な精神科論を講じていた。そしてこの青年が生まれるより前に、彼のような精神病患者が現れることを予言していたという。
若林博士は、青年の記憶回復のためといって、青年を医学部長室へ連れて行く。

そこには入院患者たちが書いた論文や創作物が並んでいた。
その中の一つは『ドグラ・マグラ』。
………ブウウーーーンンンーーーンンン………。という音を聞き目覚めた入院患者による「自分は若林博士と正木博士に実験体にさせられている」という体験記だった。

青年は、自殺した正木博士の遺した文章を読む。

『キチガイ地獄外道祭文』
正木博士は日本を遍歴しながら精神病者の扱いを訴えたという。その訴えは木魚を叩きながら阿呆陀羅経を唱えるというものだ。

ああアーああーアアー…スカラカ、チャカポコ、チャカポコ、チャカポコ…
  まかり出たるはキチガイ医師だよ、寄ってきなされ聞いてきなされ
  キチガイと言われて閉じ込め虐待されたる入院患者。これじゃあ地獄だよ
  そこでこの気楽な医師が、新案工夫のデッカイ精神病院、奇妙奇天烈珍妙無類の治療で患者を助けます
アアー…スカラカ、チャカポコ、チャカポコ、チャカポコ…


『球表面は狂人の一大解放治療場』
「この地球表面上に生息している人間の一人として精神異常者でないものはない」という論文。

『脳髄は物を考えるところに非ず』
それじゃ何なんだいというと、脳髄とは物を考えていると脳髄に錯覚させる器官ってことなんだよ。
生物は大きく複雑になり、脳髄は細胞を独立させた。そう、細胞こそ人間の意思決定の器官なんだよ、きみ。

『胎児の夢』
胎児は母体にいる間に、今日に至るまでの地球の歴史を悪夢を見ている。それは力のぶつかり合いであり、生物の残虐性である。
胎児は自分の祖先の夢を見て細胞に記憶してこの世に生まれるのだ。こうして人間は先祖の「心理遺伝」を持っている。

『空前絶後の遺書』
ヤアヤア我こそはキチガイ博士としてその名を馳せたる正木敬之なり。明日の大正15年10月19日に自殺することにしたそのついで、古今無類の遺言書を残すことにした、さあ立ち会え立ち会え。

…という感じで、正木博士は呉一郎(くれいちろう)という青年について記す。2年前に母親を絞殺した容疑が掛かったが、若林博士がその容疑を晴らした。だがその2年後に従妹で婚約者の呉モヨ子を絞殺した。
だがモヨ子は仮死状態にあったのであり、若林博士が覚醒させ、第6号室に入院させたのだ。

==
遺言の途中で上巻終わり。

最初に青年が目覚めた病室の様子は、本当なのか幻影なのか判別しかねた。
正木博士の書き遺したものはそれぞれが口語体や舞台式などの形式で書かれて目まぐるしい。
医学部長室にある精神病患者の創作物や、終盤の「手術」はかなり気味が悪い…orz

このように、精神病棟入院患者の目線の描写、文体を変えていく形式で、読者としてはついていくのに精一杯だったよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2023年7月25日
読了日 : 2023年7月25日
本棚登録日 : 2023年7月25日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする