坊っちゃん (新潮文庫)

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5

はい、実は読んだことありませんでした。
「死ぬまでに読まねばリスト」に着手中。

***
「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」
子供の時からまっすぐな気性の“坊ちゃん”は、その気性で周りとも衝突することが多いが、唯一の理解者…というか盲目的に可愛がってくれる相手はばあやさんの清。坊ちゃんという名前も清が「坊ちゃん坊ちゃん」と呼んでいるもの。

さて、坊ちゃんは学校を卒業すると四国の中学校に数学講師として赴任する。
東京で御家人筋の家柄の坊ちゃんには町も教師たちもつまらん。だからみんなに渾名をつけてやった。
 校長には「狸」、
 気取った教頭には「赤シャツ」、
 顔色が紫でやたらに控えめの英語の教師は「うらなり」、
 悪僧のような風貌の数学教師は「山嵐」、
 赤シャツの腰巾着の画学は「野だいこ」。

初めての宿直の晩、やってられんと温泉に抜け出した坊ちゃん先生。学校に戻ったら寄宿生徒たちのいたずらの洗礼を受ける。短気な坊ちゃん先生と田舎の生徒たちの噛み合わない遣り取り。
「おれの床の中にバッタを入れたのは誰だ!!」
「バッタとはなんぞなもし」
「バッタとはこれのことだ!!」
「それはイナゴぞなもし」
「べらぼうめ!バッタもイナゴも同じようなもんだ!なもしだか菜飯だか知らんが誰が入れたんだ!」
「なもしと菜飯はちがうぞなもし」
坊ちゃんは憤る。
ここの生徒どもいたずらに対して罰を受けるという覚悟ができていないからダメだ、いたずらと罰はセットだ、罰があるから安心して悪さができるんだろう、こんなやつらにだれが負けるか、今日勝てなければ明日勝つ、明日勝てなければ明後日勝つ、明後日勝負がつかなければ勝つまで相手になってやる!

数日後、赤シャツと野だいこに釣りに誘われた坊ちゃん先生は、「山嵐が生徒たちを扇動し…」とかいう二人のわざとらしい会話にあっさり乗っかり、「おれに仕掛けたのは山嵐か!喧嘩上等!」といきり立つ。

しかしその翌日の職員室、山嵐は山嵐で「おれが紹介した宿で坊ちゃん先生が無礼を働いた」という讒言を信じて詰め寄ってきた。

…この二人、気性がまっすぐ…と言っていいのか、とにかく人の話を途中までしか聞かない、他人からの讒言をあっさり信じて直接本人に聞かない、そして思い込みで突っ走る。大丈夫かこの二人。

さて。宿直の夜の騒動は職員会議の議題になる。
その会議で山嵐の態度を見た坊ちゃんは、山嵐を見直し(というかお互い讒言を信じただけのコミュニケーション不足)、二人はその後意気投合。

坊ちゃん先生が唯一敬意を払っているのは青白い顔のうらなり先生。なんか聖人君子という感じじゃないか。
しかしうらなりの婚約者も同然だった”マドンナ”を赤シャツが狙うというややこしい人間関係が繰り広げられていた。
赤シャツは策を弄してうらなりを度田舎の学校に追いやる。

ある日坊ちゃんたちの学校の生徒と、師範学校生ととの間に大規模な喧嘩が勃発し、坊ちゃん先生と山嵐が首謀者と見做されてしまう。
憤った坊ちゃん先生と山嵐は、赤シャツと野だいこの芸者遊びの現場を捕え、二人に鉄拳制裁!!!を加えると、辞表を叩き付けて東京に戻ってやったぜ。

…あれ?先生生活1か月?気が短いとかいう問題か(笑)

ともあれ東京に戻った坊ちゃんは、清を引き取り鉄道工場の技師ついて働きましたとさ。

***

有名な作品のため粗筋は知っていたし、なんかアニメで見たような覚えはあるんだが、この作品は夏目漱石の文章で読んでこそだろう。
「焦慮ている」「愚迂多良童子を極め込む」など独特な言い回し、坊ちゃん先生と生徒たちのイナゴバッタ菜飯論争などかなり笑える。

坊ちゃんは「策略は苦手、風流も苦手、口が回らないこともないが喧嘩の時に取っておいている」というが、彼の独白はなかなか軽妙で洒落が効いている。
釣りに行った時のつまらなさを「沖へ行って肥料を釣ったり、ゴルキが露西亜の文学者だったり、馴染みの芸者が松の木の下に立ったり、古池へ蛙が飛び込んだりするのが精神的娯楽なら…」とか、
怠けている様子を「愚迂多良童子を極め込んで~」など、
悪口にしてもかなり頭が回るではないか。

しかしこの小説は坊ちゃん先生の一人称なのだが、最初から最後までヤられる前にヤッたるぜ!のテンションなので、「直接相手の話を最後まで聞け!」と何度思ったことか。
そんな坊ちゃんを心配した清が手紙で「そんなことをしたら人に恨まれる元になる。気を付けて酷い目にあわないようにしろ」と書いてきたが全くである。

さらに坊ちゃんと山嵐は、それぞれ真っ直ぐな気性で、職場の学校での事なかれ主義や、大人のいじめ、長いものに巻かれろ精神に対抗しようとするが、真っ直ぐ過ぎて結局跳ね返されてしまっている。
坊っちゃん先生が嫌っている赤シャツや野だいこからも「あの坊っちゃん先生はカワイイもんだ」と言われていて、ようするに与し易い相手と思われているのだ。
この小説が妙に現実的と言うか、世間とはなんともどうにもしようもないところ。

そして小説のラストは清の消息で閉じる。死ぬ間際の清が坊ちゃんに、坊ちゃんの家のお墓に入れてもらい、お墓の中で坊ちゃんを待ちたいといたいと願う。
「だから清の墓は小日向の養源寺にある」
このなんともぶっきらぼうな報告口調で幕を閉じるのだが、このぶっきらぼうさが坊ちゃんの“情”だろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2018年11月16日
読了日 : 2019年4月15日
本棚登録日 : 2018年11月16日

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