海馬 脳は疲れない (新潮文庫)

  • 新潮社 (2005年6月26日発売)
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糸井重里と、神経研究者の池谷裕二の対談。
頭がいい
●頭がいいというのは?相手の好きを汲み取れる。伝える側と受け取る側の交流をうまくできる。すると「頭の良し悪し」は「好き嫌い」の判断基準となるのか?
●脳の中で「好き嫌い」を扱う扁桃体(へんとうたい)と、「この情報は必要か不要か」を判断する海馬は隣り合って情報交換をしている。すると「好きなことならできる」というのは理にかなっている。
●物や人とのコミュニケーションがきちんと取れている状態を「脳の働きが良い状態」と言えるか。
●一流と言われる人は、物や人とのつながりを絶えず意識しているのでコミュニケーション能力、たとえ話能力が高い人が多い。宗教家とか。別のことをうまくつなげる能力。
●身体や脳には働きすぎを回避するためにストッパーがかかっている。ストッパーを外しすぎると危険だが、ストッパーを外すことにより経験を積んだり事件解決できたりする。
●しかしただストッパーを外すのではなく、それによってどうなるか、どんな被害が生ずるかなど、未来のシュミレーションがきちんとできている人が人間として伸びたりトップに立ったりする。
●ストッパーをまるで外さないのは刺激がなさすぎるので、それはそれで生きる意思が弱くなったりする。
●頭がいい、かっこいいという人は情報を増やそうとするから輝いて見えるのでは?人から「この人を止めないでおきたい」「一緒にどこか面白いところに行けるかもしれない」と思わせるような人。


脳の成長
●脳は20代終わりくらいで脳の編成は落ち着く。
●脳自体は3~40歳を超えたほうが活発になる。30歳までの脳の動きと、超えてからの脳の動きはまた別の働きになる。
その別の働きに馴染めるか、馴染めず今までの脳の使い方に固執するか。
●一見関係のないものとものの間に、以前自分が発見したものに近いつながりを感じる能力は、30歳を超えたほうが伸びる。年をとったほうが、推理、経験を活かすという能力が高まる。
●年を取っても脳の力を引き出すためには、新鮮な視線で世界を見る。


神経細胞
●神経細胞だけでは、動物の間では似通っている。人間の細胞となめくじの細胞などもほぼ同じ。
●では人間と他の動物の違いは、神経細胞と神経細胞の繋がりや繋ぎ方。
●他の動物と比較して脳の中のどこが大きいかでその動物が何を得意としているのかがわかる。例えば、運動を司る小脳の割合が大きいのは鳥。急旋回したり、上から狙ったり、運動神経が一番優れている。また人間よりもよく動くネズミの小脳のほうが大きい。
●人間の場合は、「聞く」「嗅ぐ」が苦手。「視覚野」は非常に大きい。前頭葉も動物の中では大きい方。

脳は休まない、疲れない
●脳はいつでも元気!まったく疲れない!
●脳が止まってしまったら体肢も五臓六腑も全部ストップしてしまうので、寝ている間も脳は動き続けていて、一生使い続けても疲れない。
●疲れるているのは目。
●そのため「脳がつかれたから30分休憩して疲れを取ろう」という考えは間違えている。目の疲れや、体の疲れを補うほうがよい。動きながら考えるのがよい。パソコン使いすぎて疲れたら、動き回って目や体を休めながら頭は使い続ける。脳にとって「一旦忘れる」ということは良くない。何かを考えているなら考えたまま違うことをするのが良い。(←別の科学者の本でも同じことを言っていた!確かに脳を一度休ませると元の状態に戻すのに時間がかかるよね)
●区切りの良いところで休むのではなく、区切りの良いところからしばらくしてから休む。
●脳を休ませないで他のことをしながら考え続けるというのは、考えていっるテーマと関係のない刺激があるおかげで、自分の分類にズレが生じて、それにより今考えているテーマを別の目線で考えられる。ものとものの繋がりにちょうどよい修正を加えることになる。
●脳はひとつの視線を持続できない。一定時間に固定した見方で同じものを見続けることはできない。
●飽きる・続けられないは脳としての働き方。
●曖昧さも大事で、物と物との繋がりを一つに決めて固定させてしまい、情報を整理しすぎると、何かを消してしまう。
●同じことの繰り返しは刺激がなさすぎて生物には辛い状態。

脳は見たいものしか見ない
●脳は自分が混乱しないように、物事を自分の分かる範囲に当てはめてしまう。脳は主観的なところがある。
●”錯覚”などは脳が理解できないものを自己修正している。

情報の保存と処理
●脳の機能は2つだと思えばスッキリする。「情報を保存する(記憶)」「情報を処理する」
●暗記「意味記憶」、それを試して分かって生まれた記憶「経験メモリー」
●脳の記憶の仕方は「可塑性」がある。脳は変化したらその変化したままにしておけるので、ある情報と回路が繋がったらそれを維持できる。
●海馬の中でも、脳細胞と脳細胞をつなぐシナプス(細胞と細胞をつなぐための道路の交差点)そのものに可逆性がある。

海馬と扁桃体
●海馬は記憶を製造する機関。そのため、海馬がなくなったら(怪我や病気で。映画クリストファー監督の「メメント」の主人公がそれでしたね)なくなった以降の記憶を5分以上とどめておけない(5分程度なら海馬を通さないで脳で記憶を留めておけるが、それ以上となると海馬が必要になる)。
●しかし感情を記憶するのは海馬ではなく扁桃体。
●海馬を無くした人が、蛇に噛まれた場合⇒次に蛇にあっても、怖いという感情は残るが、噛まれたという記憶は残らない⇒蛇はなんか怖いので近づかない。
扁桃体を無くした人が、蛇に噛まれた場合⇒次に蛇にあっても、噛まれた記憶はあるが、痛いとか怖いという感情は覚えていない⇒蛇に近づいてしまう。
扁桃体がないと、親に会っても親しい感情が生まれないので「顔は親にそっくりだけど、親しみを感じないので、きっと親の偽物だ」という脳処理になる。
●でも日常生活を送りやすいのは、扁桃体をなくしたほうがまだましかな。海馬をなくすと引っ越ししたらもう家に帰れなかったりするので、そもそも一人では日常生活が困難。
●扁桃体と海馬はお互いに関係しあっている。

脳は嘘をつく
●脳は、辻褄の合わない出来事に合うと、嘘の記憶を作って自分を守る。(幽霊を見た⇒いやあれは枯れ木だろう。親にあっても親密感がない⇒ではこの親は偽物だ)

脳はせいぜい7つのことしか同時に記憶できない
●あまり記憶すると日常生活がおくれないので、とりあえず7つ程度しか一度に維持できない。テスト前とかでどうしても暗記したいなら「これを覚えないと生存できないんだー!!」と思いこんで海馬を騙すとか。

脳は刺激や面白いことがあると発達する
●あまりにも刺激がないと脳の働きが低下する。たとえば真っ白で無味無臭無音の部屋に閉じ込められると、脳が自分で刺激を作り出すために幻覚を見たりする。
●しかし脳は、刺激を求めると同時に、安定した見方をしたがる。家の壁のシミが人の顔に見えてしまったら、何度見ても数年後に見なおしてもやっぱり顔にしか見えなくなってるとか。そのため相続的なことをしたければ安定した脳に対して挑戦せねばならん。
●悩みを解決するには、一旦その悩みを他人のものとして考える。さらに悩みに付随するものを一度捨てて悩みそのものだけを考える。
恋人と別れると、もうサークルの友達には会えないなあ⇒他人になった気持ちで「別れたほうがいい。サークルとか言ってる場合じゃない」とか客観的に見られる。

脳の成長ははやい。
●脳の成長は2の何乗で進む。経験を積むに従い1→2→4→8…と進む。経験と刺激を与えてそれをどう生かすか。

睡眠は大事!!
●眠っている間に海馬は記憶を整理する。起きている間の経験同士をつなげたり、新しい組み合わせをつくりだしたりする。新しい記憶を寝ることによってシャットダウンし、その間に整理整頓するということ。
●だからもし寝ないと、脳の整理整頓ができない。寝不足で幻覚を見るのは、脳が寝てない人を寝ている状態に強引に持っていってる。
●だから寝よう!(←寝るの大好き!!な私には朗報!!!(^○^)。さあたくさん寝よう)
●しかしまったく寝ずに休まずにストッパー外しまくって働ける脳の持ち主もいる。たまにいる行き過ぎた働きをする人が型にはまらない強烈さをはなつ。

やる気
●達成感は脳を活性化させる。そのために目標は小刻みに。集中力ははじめと終わりに高まる。「1時間やる」より「30分やる×2」のほうが、目標達成した快楽物質が出る。
●やり始めないと、やる気は出ない。

経過も大事
●考えた結果だけでなく、考えの途中の経過も大事。「ここまでは考えた。あとは別の人考えて」「前はこう考えたけどあれは違った。今はこう思う」ということを出してゆくことも、考えの発展につながる。

受け手
●脳神経は、繋がりの受け手の方に選ぶ権利がある。
それなら情報とは、受け手のほうが強い。どんなに良い情報を発しても、受け手が「わかりました」とならないと伝わらない。

認識
●認識は記憶の組み合わせでできている。「パイナップル」を見たら、「上から見たギザギザ」を覚える脳細胞、「黄色」を覚える脳細胞、「楕円でゴツゴツ」を覚える脳細胞がいっぺんに反応する。するとちょっと違うけどこれもパイナップルかな?などとわかるようになる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学・数学
感想投稿日 : 2021年2月18日
読了日 : 2021年2月18日
本棚登録日 : 2021年2月18日

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