パンタレオン大尉と女たち (新潮・現代世界の文学)

  • 新潮社 (1986年2月1日発売)
3.69
  • (4)
  • (4)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 59
感想 : 7
4

ペルーの村人たちは兵士たちによる婦女暴行の多発に怒りを募らせていた。軍部の対策は”婦人巡察官”つまりは兵士専門の移動売春婦部隊を作ること。抜擢されたのはパンタレオン・パントハ大尉。生真面目で有能で前途有望、腸と臀部に問題アリ。
最初は戸惑ったパンタレオンだが持ち前のくそ真面目な凝り性を発揮し婦人巡察部隊をどの軍隊より完璧な規律で作り上げる。
こんなスキャンダルかつ魅惑的な話が極秘でいられるはずはなく、娼婦たちは「堅実で素晴らしい職場!」と応募は殺到、軍隊は「早くこっちにも回せ!」、村人たちは「自分たちにもヤらせろ!」、報道者は「黙っててほしけりゃわかってますよね」などとやいのやいのと言ってくる。
困ったのが上層部。もっと穴のあるシステムでよかったのに、なんでこんなにちゃんとやっちゃうんだ。
同時に上層部を悩ませるのは宗教集団<箱舟(アルカ)>の集団。主催修道士は「世界の終末は近い!十字架にかけて神に祈れ!」と唱え、熱狂した村人たちは虫でも動物でも、はては人間まで十字架にかけまくってしまう。

そんな混乱のなかますます真面目に婦人巡察官を仕上げ続けるパンタレオンに上層部は…。
===

バルガス=リョサ(以外、マリオさん)初期のころの中編。
マリオさんの小説では間違ってない人物が左遷されたり殺されたりしちゃうことが多いんだが、それでも読後感覚は悪くない。自分を通して左遷されたならしょうがないか、という感じで。
文章構成もやっぱりマリオさんの風味が出まくっている。
地の文、手紙、報告書、ラジオ放送という手法で一連の流れを組立てる。
報告書なんぞは、パンタレオンが我が身を持って「1度の行為にどのくらい時間がかかるか?それにより何人の女が必要か?この薬は男の下腹部にどのような効果をもたらすのか?」などのあれやこれやを大真面目に研究したりして、真面目バカってのはこういうやつなんだよな、受け取った上層部も真面目に返信してて、本人たちの真面目さって横から見ると笑えるよね、などと。
そもそもこのテーマだって相当笑えないのに、批判を交えながら笑うしかない話に仕立てているのが大したところ。
場面や時間もまぜこぜ。第1章では「出勤前の朝のパンタレオンと家族の様子」「パンタレオンが首脳部に任務を伝えられる場面」「新任地に赴いたパンタレオンが早速軍隊付き神父に非難される場面」が入り混じっている。これにより最初からこの任務はふしだらで歓迎されてなくて破綻しそうな予測させられる。
またいくつかの章の冒頭は、家族がパンタレオンを起こす場面となっていて、時間や家族の接し方が変わっていったりしていて、パンタレオンの立場の変化が見られたり。どちらにしろ最後は飛ばされた先でかなり大変そうだけど相変わらず大真面目にやっているようで、お元気で何より。

ちょっと難なのが翻訳かな。
身分や人種により言葉遣いの違いや訛りやコトの場面での赤ちゃん言葉を無理矢理変な日本語に当てはめているからいちいち引っかかってしまう。
原語ではおそらくもっと自然に入り混じってユーモラスかつ人種の違いが分かるようになっているんだろうなと思うんだが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●南米長編
感想投稿日 : 2024年2月4日
読了日 : 2024年2月4日
本棚登録日 : 2024年2月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする