決定版 鬼平犯科帳 (9) (文春文庫) (文春文庫 い 4-109)

著者 :
  • 文藝春秋 (2017年4月7日発売)
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感想 : 13
5

『雨引の文五郎』
まるで名物のような盗人だった。雨引の文五郎は、昔は西尾の長兵衛親分の片腕だったが、長兵衛が死ぬと跡目を断りきっぱりと一人働きへ鞍替えした。そのおつとめ(盗み)の見事さは「隙間風」と呼ばれるくらいだ。
こんなに有名なのに誰も顔を知らない。その文五郎の人相書きを鬼平に送りつけてきたのは文五郎自身だった。こうして鬼平をからかう洒落っ気に鬼平は苦るしかなかった。
その文五郎に恨みを持つ落針の彦蔵という押し込み強盗がいた。鬼平はまとめて彼らを相手にすることにして…。
※※※芸達者で他の盗人から「お縄にさせるにはもったいない」と言われるようなひょうきんな顔立ちで筋の通った盗賊。鬼平も真剣に勝ちたがっています。

『鯉肝のお里』
鯉は肝を潰すとその苦味臭味がなかなか抜けない。それを通り名にする女賊というからにはいかばかりか。
偶然そのお里を見かけた鬼平の女密偵おまさは、同じ鬼平の密偵で元盗賊の頭の大滝の五郎蔵とともに張り込むことになり…。
※※※裏社会でのストレス解消はセックス…というサガがなんとも言えない。そして元盗賊である密偵たちへも心遣いを持つ鬼平が、粋な仲人働きを見せる。
「鬼平犯科帳」では、鬼平と密偵たち、鬼平と町人たちのふとした交流も良い感じで書かれています。

『泥亀』
かつて盗人宿を預かっていた泥亀の七蔵爺さんは、隠居金をもらいかたぎ暮らしをしている。だがかつて世話になった親分が死に、残された妻子が貧乏暮らしに喘いでいると聞き、なんとか助けたいと一人働きを画策する。でもうまくは行かないのだ。だって七蔵爺さんはただの田舎の盗人宿の親父だし、引退の理由も痔が悪化して歩行にも支障をきたすからなのだ。別の線から事情を知り七蔵を捉えた鬼平でさえ、尻を痛がるこの爺さんを処罰する気にはなれなかったくらいだ。そこで鬼平は…
※※※いい感じで人情噺が進みちょっと緩んだ人が出てきます。やっぱりあまり情け容赦ない展開は読んでいて辛いからね。

『本門寺暮雪』
かつて鬼平と剣術を習った井関緑之助は、今では気楽な乞食坊主暮らしで、たま〜に鬼平の密偵めいたことをしている。だがそんな呑気な緑之助が鋭い目線を向ける相手がいた。かつて緑之助に斬り付け大怪我を追わせた゛凄い奴゛が江戸に現れたのだ…。
※※※名前も目的もわからず”凄い奴”としか形容されない人斬り。ドラマで見たらさぞかし緊迫感があっただろう。
決着の付け方はうまくいきすぎな気もするが、犬がいい働きしたから良し。

『浅草・鳥越橋』
大店に盗みに入る場合には一味のものを奉公人や下女として店に入れる。そうして何年もかけて準備をするのだ。
そのような”引き込み役”である仁助のもとに相棒の定七から思いがけない知らせが届く。家に残している女房が、盗人のお頭に寝取られたというのだ。あまりの仕打ちにお頭への恨みを募らせる仁助に定七が持ちかけた話は…。
※※※盗賊同士の裏切りやら酷い騙しやらなんか怪しい人間関係やらで、巻き込まれて犠牲になった人たちが気の毒な。
前作「本門寺暮雪」で出てきた柴犬は、鬼平が連れて帰り”クマ”と名付けられて長谷川家の愛犬に。そのうち市中見廻りにも連れて行くつもりらしい。かわいい。

『白い粉』
鬼平の屋敷の料理人勘助は悩み抜いていた。鬼平に毒を盛らなければ女房を殺すと脅されたのだ。もともと博打好きで何度も足を踏み外しては料理の師匠や鬼平により助けられた勘助。だがそのような危機を迎えてさらに博打へとのめり込むのだった。

『狐雨』
最近鬼平の部下になった同心の青木助五郎は、冴えない風貌と人付き合いの悪さとは裏腹に次々と手柄を挙げていた。同僚たちからはやっかみともつかない悪い噂も流れている。
そんな時青木はいきなり鬼平の屋敷に押しかけ、人間とも思えない振る舞いに及び出した。
極悪犯罪者に慣はれている鬼平も、いきなり狐憑きとなった相手にはさすがに畏れを感じ…。
※※※現在で言えば脳障害をきたしたのでしょうが、この裏にある人間関係や幼い時の体験話がなんとも物の哀れを感じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 鬼平犯科帳
感想投稿日 : 2020年5月28日
読了日 : 2020年5月28日
本棚登録日 : 2020年5月28日

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コメント 1件

地球っこさんのコメント
2020/08/16

淳水堂さん、おはようございます。

『鯉肝のお里』での、おまさの心の声にちょっとうるっときちゃいました。
初恋よ、さよならという感じです。
おまさにも幸せになってほしい。
おまさのことばかり気になってしまうお話でした 笑

あと『泥亀』のあの元盗賊のキャラ、いい感じでした。人情噺はわたしも好きです!

『本門寺暮雪』は、ワンちゃんにズキューンと持ってかれました。

何だか、今回は本筋(盗み)の登場人物よりも周りが気になるー!

『狐雨』も怪談ぽくって、意外にも面白かったです。久栄さんは、やっぱり平蔵の妻。堂々としてますね。

以上、(勝手に名づけた)鬼平会メンバーの感想でした 笑

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