たまさか人形堂物語 (文春文庫 つ 19-1)

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  • 文藝春秋 (2011年8月4日発売)
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お仕事小説というか人形小説?

3年前に広告代理店をリストラされた澪は、30代後半。
入院した祖父に、世田谷区の玉阪人形店を生前贈与された。
祖母が市松人形を作る店の跡継ぎで、祖父は職人の入り婿。
祖母に可愛がられた澪は、思い出のある店をやっていこうと思うが、特に人形に詳しいわけではない。

社員第一号の富永くんは、人形マニア。
気楽な勤めぶりだが、その代わり給料は安くていいという~お金持ちのボンボンらしい。
富永くん作のテディベアも人気を博すようになる。
「あらゆる人形を修復できる方」という募集に応じた職人・師村に助けられて、次第に良いコンビになっていくが…?
修理をメインにやっていくことにしたため、持ち込まれる人形にまつわるエピソードは多彩。

昭和初期、アメリカから親善のために贈られたという、いわゆる青い眼のお人形。
実は「青い眼の人形」の歌は、親善使節を送る企画よりも前に作られたので、キューピーのことだった。
親善のために贈られたのは、アメリカで募金により購入された一万数千体にのぼる色々な人形だから、青い眼には限らなかったそう。
といった豆知識も色々。

「毀す理由」
顔だけがひどく毀れた人形を持参した若い女性。元の写真と、持ち主の顔はそっくりだった…
30年ぐらい前の古い人形なのに、何故?
しかも、毀したのは本人らしい。どのように修復すべきなのか?

「村上迷想」
村上市での雛祭り。
旧暦の雛祭りの日まで一ヶ月飾られている伝統ある雛人形をめぐって。
旧家のミステリ。

「最終公演」
チェコの人形芝居の名人の話。
大国に支配された時代でも、人形芝居は母国語での上演が許されたので盛んだったとか。
パラフ劇団を主催するパラフ氏は奔放な想像力を駆使して、自由な公演を行っていた。その最終公演とは?

「ガブ」
人形浄瑠璃の人形の頭をめぐって、師村の過去が…?!
ああいう人形って、着物の下には身体がないんですね…
彫刻と人形との違いといった話題で、たとえば彫刻家は耳を量感で捉えるので耳には穴がない。人形作家は耳を生身に似せるので耳の穴を作る、とか。師村氏の語る仲の良い人形作家の弁なのですが。

「恋は恋」
富永くんが友人から預かったのは、ラヴドールという等身大のドール麗美。
ウェブサイトで一目惚れして貯金して買ったそうだが。
友人はカメラが趣味で、ちゃんと恋人もいるという。
亀裂の修理を依頼した所、メーカーのキャプチュアから束前という社長がやってくるが、この型は基本姿勢を誤った失敗作なので直せないという。
まだ開発途上なのだ。
新しいタイプのボディに交換することは出来るが、安くはない。

かなりトーンの違う話が入っています。
気分が変わっていいけど、期待と違うと感じる人もいるのかな?
お人形にかける熱意は、一貫していますね。誰がどこに力点を置くかの違いかな。
なぜ、人は魅せられるのか…
お人形は広く大好きなので、面白かったです。
私が特に好きなタイプの人形の話は全く出てきませんけど~確かに普通すぎて小説にはなりにくいと思うけど。
続編もあるそうなので、楽しみ。

この作品は2009年1月発行。
著者は1964年、広島市生まれ。89年、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。
97年、現名義で「妖都」を上梓。幻想小説の旗手として注目される。
2006年、自身の高校時代に材をとった「ブラバン」が話題となる。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 国内小説
感想投稿日 : 2012年4月4日
本棚登録日 : 2012年4月3日

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