直木賞受賞作。
十年後に切腹という沙汰を受けた武士のもとへ送られた青年は…
豊後・羽根藩。
奥祐筆を勤める青年・壇野庄三郎は、思わぬ事で同僚と諍いになり、相手に怪我をさせてしまう。
城中での刃傷では切腹になりかねないところ、家老の計らいで向山村に遣わされる。
幽閉中の元・郡奉行、戸田秋谷の仕事の手伝いをし、実は見張る役目だった。
秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯し、小姓を切り捨てたという。
家譜編纂が途中だったのを惜しまれ、それが終わるまでと十年後の切腹を命じられていた。
秋谷はそんなことをするように見えず、どんな事情があったのか、庄三郎は調べ始める。
十年後の切腹という不可解な裁断の意味も…
あるいは、前藩主が生きていれば許す予定であったのか?
友を傷つけたことを悔いている庄三郎。
淡々と暮らしている秋谷、覚悟を決めているらしい妻、悲しみをこらえている娘、事情を知り始めた幼い息子。
こういう事情では家族は別に暮らす方が普通だが、妻は一緒に暮らすことを選んでいた。
年貢に喘ぐ農民たちの間には一揆の動きもあり、殺人まで起こります。
かって郡奉行だった秋谷は、村人に信頼されていました。
今は立場上、表だっては動けないが、一揆を起こせば農民は必ず罪に問われて命がないのを案じて、止めに入るのです。
秋谷の言動に感銘を受ける庄三郎。
家譜編纂を手伝ううちに、何かが隠されていることを突き止められるのでは思い始めます。
そこには、お家相続に絡む秘密が…?
落ちついた筆致で、登場人物も、出来事も、バランスよく描かれています。
色々な事情を腹に飲み込んで死に赴く秋谷。
本当にどうしても避けられないことだったのかと現代の感覚では思いますが。
家老とも一度は対決し、後のことも道筋を付けて、それなりに納得していたのだろうとは思えます。
静謐な印象が残り、救いもある後味で、お見事でした。
- 感想投稿日 : 2012年8月15日
- 読了日 : 2012年8月6日
- 本棚登録日 : 2012年8月7日
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