真夜中が開店時間というちょっと変わったパン屋さん。
首都高と国道246が重なり合う町の~駅からはちょっと離れたあたり。
男二人でやっているその店に、高校生の女の子が転がり込んだ。
篠崎望実は、なかなか家にいつかない母親にネグレクトされて育っていた。
ある日、家に帰ると母親の荷物がなく、手紙には異母姉の暮林美和子の元へ行けとあったのだ。
パン屋「ブランジェリークレバヤシ」のオーナーは、美和子の夫だが、美和子は事故で急死した後だった‥
当然のように~望実を受け入れる暮林。
白いコックスーツを着た30代後半の、眼鏡をかけたいかにも人がよさそうな男。パン作りも習っているが、主にレジを担当。半年前までは海外勤務のサラリーマンだったのだ。
パンを作っているのは若くてハンサムな柳弘基で、黒いコックスーツが似合う。こちらは口が悪い。
望実は弘基とはすぐ口喧嘩になるのだったが。
学校でいじめに遭っている望実だが、気丈に対処していた。
ある日、パンを万引きしようとした男の子こだまを見つけ、その子の家を訪ねると、後で母親が殴った様子。
しかも、何日も母親が家を空けることを知り、何かと世話をすることに。
こだまは、健気にも、大好きな母親・織絵ちゃんの帰りを待つために家にいると言い張るのだが‥
何かと店を手伝うようになった望実。
パンの宅配も受け持つことになったが、配達に行った先でまた思いがけない出来事が。
それぞれにかなり強烈な過去を抱えた登場人物たち。
急いで読むと、虐待を含む不幸の連鎖に押しまくられそうになりますが。
しっかり踏みとどまろうとする意思や、若々しい勢い、何気ない人のあたたかさに救われます。
おだやかな暮林の生き方。やりがいのある国際組織での仕事に熱中していたのだが、突然妻を失って、途方にくれたこの半年。
弘基の憧れの女性だった美和子だが、実は暮林と出会った若い頃にはきつい性格だったとは。
「心を半分あげる」と美和子に言われたその意味とは‥
救いがなさそうなほどの過去に縛られた思いが、いつの間にかふっとほどけるその瞬間に立ち会えて、じわりと泣かされます。
著者は1975年、岐阜県生まれ。
脚本家として活躍するかたわら、2005年坊ちゃん文学賞大賞を受賞して小説家デビュー。
この作品は2011年6月発行。
- 感想投稿日 : 2012年12月16日
- 読了日 : 2012年12月12日
- 本棚登録日 : 2012年12月14日
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