少し厚いかなと思ったが、60近くある各章のサブタイトルが興味をそそったので手に取った。「オングストローム」「エンジン、円陣、猿人」「未来から来た男」なんて、具合だから。
本編は、グラフィティと放火と遺伝子の物語。
とある兄弟と父親の過酷な運命を、謎解きの形式で描く。読者は謎解きを兄の思考速度と同じ歩調で読み解くので、置いていかれる心配はない。ここは作者の意図と手腕が光る。この3人以外の人物にも、最初から注意が必要だろう。
読み味は、同じく伊坂幸太郎の『ポテチ』に近いものを感じる。作者は兄弟や家族をテーマもモチーフに選ぶことが多いのだろうか。その作者自身の背景も気にかかるとこと。
終末と家族と出産を描いた『太陽のシール』には、映画「キャプテン・スーパーマーケット」を登場させた。この作品『重力ピエロ』には、ガンズ・アンド・ローゼズの発禁ジャケットと推測されるCDを登場させている。HIPHOPカルチャーのグラフィティとハードロックを、対立の意図として登場させている訳ではない。あくまで、主題の背景に対する憎悪の対象として登場させている。なので、今回はバンド名とアルバムタイトルは明確にしていない。あのジャケと分かる方だけ、より一層作品の深みが増す。
文壇にではなく読者に向けられた姿勢は、好感に価する。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ミステリー
- 感想投稿日 : 2016年9月1日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年9月1日
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