隠蔽捜査 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2008年1月29日発売)
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本棚登録 : 5558
感想 : 625
5

今野敏といえば警察小説というイメージだが、随分前に一作読んだことがあるのみだった。
先日読んだ堂場瞬一がガッカリだったので、何か警察小説で良いのがないかと思って読んでみた。

まず、この作者は難しい言葉、漢字などは一切使わず、読みやすい文章に好感が持てた。
ストーリーとしては、警察官僚(キャリア)である主人公・竜崎伸也が、連続殺人事件と息子の件を絡めながら同時進行で描かれる。
竜崎は、小さい頃から勉強に励み、東大を経て国家公務員試験に合格し、警察官僚となる。
多くの小説では、叩き上げの警部が主人公で、その
邪魔をする存在として描かれることが多い「キャリア」だが、本書ではそのキャリア視点から描かれているのがとてもユニークと感じた。
私の大好きな、ウィングフィールド作品に登場するフロスト警部が、まさに現場叩き上げタイプだ。上司である署長の言うことなど聞かず、やりたいように捜査を進めてしまう、その破天荒さがたまらなく楽しい。
普通だと、竜崎のような人間だと感情移入しづらく面白くないのではないかと思うのだが、とんでもない。
とにかく、この真面目で原則を重要視し融通の効かない仕事ぶり、いや生き方に逆に爽快感さえ感じて応援してしまうのだ。
おそらく、自分自身で考えてみると、今までの人生で何事にもつい妥協し、仕事でもある程度適当?に誤魔化して過ごしてしまう自分自身の情けなさといったものを実は感じているからだろうか。
単なる優越感、ブライドではなく、竜崎の警察官僚としての使命、矜持というようなもので突き進んでいく姿に感動し憧れてしまうのだ。
終盤に、部下の谷岡との会話では、思わず涙が止まらなかった。それまでは、ひたすらキャリアとしての仕事を遂行することだけが重要で、他人や同僚との個人的な関係は不要と考えている竜崎だが、谷岡からの言葉は嬉しかっただろうと思う。

「隠蔽捜査」はシリーズ物のようだ。
竜崎のこれからの活躍が、まだ何巻も味わえると思うと楽しみで仕方ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月20日
読了日 : 2024年3月20日
本棚登録日 : 2024年3月20日

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