黒い☆安息日の禁断書籍ビニール掛け

日本中、いや世界を巻き込んだパンデミックとなった「コロナ禍」後を舞台にした短編小説6編を収録。救われる結末もあれば、やるせない結末もあるが、どれもあの時期の閉塞してやるせなかった社会と生活が根幹に流れているストーリー

とある登場人物のセリフ
『あん時の感染者数、覚えてるか?一日千人もいなかった。たった千人にビビりまくって、監視し合って…そのうち、一日何万人って発表されても、社会回せ、経済回せって無視するようになるのにさ』

怖かったのは病気自体よりも、同調意識に伴う社会の閉塞感。ライブハウスがつぶれ、罹患者を出した家庭は崩壊し、マスクをしてないと飛行機は飛ばず、飲食店は開かず…。パンデミックを恐れるのは仕方なかったのかもしれないが、それを正義の証文として掲げた世論が、自分たちの望まない行動をした者たちを制裁していく言動の怖さ。

この本を読みなおして、「あの時は仕方なかってん」で済ましてはいけないこともあるなぁと思った次第。確か戦後もそんなことを言うてた奴らがおったと聞く。仕方なかったんだとしたも、そういうバッシングに加担しなかった人が大勢いるということは、バッシングや世論誘導に加担したヤツは仕方があったんよね。

そういう連中はきっといけしゃーしゃーと無神経に生きてるんだろうなぁ。やるせないけど

2024年5月12日

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読書状況 読み終わった [2024年5月12日]
カテゴリ 日本小説

凄い小説を読んでしまった。家族小説を真正面からバシンと描いた最高傑作。木内昇恐るべし。

槍投げでオリンピックを目指していた主人公悌子は自らの限界や戦時下という時勢もあって挫折し国民学校の代用教員となる…。大筋は悌子の戦中戦後の人生を描いていくことになる。

とにかくキャラの立たせ方と結びつき彼らの生き生きとした描写が良い。教え子を空襲でなくしたり、幼馴染の思い人が戦死したりと暗い出来事も多いのだが、必要以上に筆致に悲壮感を加えず、食糧難も姑のいじわるも思春期の反抗も、家族にとっては一大事と平等に描いていく。

それら一大事を家族愛や人間関係で緩やかにほぐしていく描写と、世の中の暗雲が少しずつ晴れていく戦後という時代背景が相まって温かく明るい小説になっている。

余談
NHK朝ドラの雰囲気がバチバチに出ている作風(おそらく意図してたものと思う)だが、人間ドラマを丁寧に描く上でNHKは大きな貢献をしているのではないかと思った。励みのある人間模様を観て「今日も頑張ろう」と思わせる貴重な朝の15分。朝ドラに全く興味のなかった俺だけど、そう考えると良いものなんだなぁということは理解できた。

2024年5月10日

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読書状況 読み終わった [2024年5月9日]
カテゴリ 日本小説

超大作630ページ、読み耽る姿勢が悪ければ腱鞘炎になるレベルのボリューム。初小川哲だが、いやオモロかった。

タイトルから、暴力(拳)でもって支配地域(地図)を広めていく話だろうと想像していたが、それはまだ基礎の基礎で、地図と拳の上に何があるのか…という話だった。

それは建築であり、経済であり、文化であり、主義主張であるということなのだが、主人公の一人明男が追い求めた建築が人間にとっていかに必要であるかの理想と現実がすさまじい。それは国家や主義主張もそうなのだが、具体的に目に見えていて、長く世に残る可能性も秘めていれば、衰退を体現することもあるという意味では、なんともすさまじいなぁと。

反戦の事、野蛮の事、洗脳の事…大ぶりの文章の中で考えさせられることはたくさん出てくるのだが、タイトルに出てこない建築ということについて、ものすごく考えさせられた1冊だった。

2024年5月6日

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読書状況 読み終わった [2024年5月6日]
カテゴリ 日本小説

昭和か平成初期ごろに建てられた古めの分譲マンションに住む3人家族の日常を描く。言い回しやら比喩からが文学的なんだろう、長嶋節という味わいもあるんだろうが。

新参者の俺にはその良さがちょっと分からず。これだから純文学の素養の無いがさつ者は困るねんなぁ

2024年4月30日

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読書状況 読み終わった [2024年4月29日]
カテゴリ 日本小説

タイトルを見て、「人生の節目節目に美味しいものを食べて成長していく話、ひょっとして宇宙食絡みかなぁ」…青山美智子とか伊吹有喜とか古内一絵とかの諸作品を思い浮かべた。

読んでみたら、主人公の宙ちゃんが確かに人生の節目節目に美味しいものを食べて成長していく話なのだが、その節目の荒いこと大きいこと。

第1章からして、小学1年生の宙ちゃんには生みの母親と育ての母親がいて、育ての母親一家が海外転居を機に生みの母親に一方的に返されるという展開。生みの母親花野は絵描きで自分の生活すらコントロールできず、まして子育てなどできないが…みたいな試練を与えられる宙ちゃん。

そっからも様々なでかすぎる節目を与えられ、最後にはとんでもない節目が…詳しくは書けないが、巨人の星の最終決戦を思い出した。そういやあの作品も最後は家族や親子というテーマに結実していったよなぁ。と

食がテーマの心温まる家族小説…と書いて間違いはないのだが、そのつもりで読むと何かしら裏切られる、でもその裏切りは読者の期待を裏切るわけではない。

えげつない仕掛けを考えたもんだ、おそるべし町田その子

2024年4月26日

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読書状況 読み終わった [2024年4月25日]
カテゴリ 日本小説

読み応えありすぎのロードノベル。深い味わいがジワーっと沁みてくる文章で描かれる、主人公格4人と脇を固める個性的な登場人物の考えや生き様が実に良い。人生を旅する小説の魅力が670Pを超えるページ数にすらあふれるほどに詰まっている傑作。

分厚さと多視点の構成に敷居を高さを感じるが、難解な文章でもなくリズムも程良くて次第にはまっていく。腕がダルクなる書籍の重さはツラかったが(笑

エメットとビリー兄弟、ダチェスとウーリーの脱獄組、きっちり姐さんのサリー、ユリシーズ、タウンハウス、アバカス…かれらの生き様思想のタペストリーが編みこまれた先のラスト。好みが分かれると色んな書評に書かれているが(俺は絶対に好きじゃない)、読んだものにしかこの模様の是非は語れない。

忘れられない至高の読書時間となった。いやホンマ実に素晴らしい!

2024年4月21日

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読書状況 読み終わった [2024年4月20日]
カテゴリ 海外小説

今村翔吾が描いたのは、なんと真田幸村じゃないか!すごく幼いころに大河の「真田太平記」を観て以来の幸村ファン。大阪市内に住んでいれば、大阪城はランニングでも花見でもしょっちゅう訪れるし、真田丸の場所も茶臼山も出てくる地名は知悉のものばかり。面白くないわけがない!

…と、読んでみてびっくり。幸村ファンであることはともかくも、大阪在住だろうと大阪冬夏の陣がどうであろうと、そんなことがこの本の面白さではない。豊臣方の武将たちの想い、伊達政宗の野望、暗躍する忍びのスパイ戦、それらこれらが挿話として物語を構築する様は「壬生義士伝」のように層をなしていく。とても良い。

そうして幾層にも積み重ねられた物語の上に成り立つ、最終章の徳川家康VS真田信之の対話が圧巻。この最終章を読むために、あの450Pを重ねさせるんや。なんという職人芸!こんな本ばかり読んでいたい。

2024年4月24日

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読書状況 読み終わった [2024年4月24日]

江戸深川の駕籠かき職人の物語と聞いて、市井人情モノかと思いきや…いや、実際そうでもあるのだが…意外にもアスリート小説の類。

バイアスロン(走って泳ぐ)的なアスリートストーリーがあり、そこに努力・友情・勝利というどこぞの少年週刊誌的なテーマに加えて、粋やらいなせやら男っぷりやらと、威勢の良さが読ませ処。

江戸という時代がそうさせるのだろうが、男臭い物語。女性が絡むのは家事と裏方と被害者のみという、令和の世では何かしらのコードに引っかかりそうな

2024年4月28日

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読書状況 読み終わった [2024年4月27日]
カテゴリ 日本小説

王道の正しき、あとがきにもあるように「惚れ惚れとするフェウェイ」な推理小説。

手掛かりはすべて与えられ、所謂トンデモ系の仕掛けは一切なし。語り手かつ助手は作者自身(有栖川有栖などこれまた王道パターン)、名探偵は警察あがりのクセ強い正確な探偵(というか警察のご意見番)

ホームズワトソンパターンのコンビに王道ミステリーときたら、本格すぎて古いのかなと思ったけど、目新しさはなくても古さは感じられず。その辺がホロヴィッツのバランス感覚。ミステリーとして万全でありつつ、文章構成もきちんと現代に沿わせてくるという筆力。

こんだけ読ませて面白いなら、そりゃこのミスも1位になるだろうし、話題沸騰にもなるなぁ。話題作だからと妙に敬遠してしまってたが、勿体ないことをしたし、今読めて良かった。

ピュントのシリーズとともにホーソーンも追っかけて行くことに決定

2024年4月16日

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読書状況 読み終わった [2024年4月15日]
カテゴリ 海外小説

大切な人を失った人の、失意のうちに生きる日々を描く5つの短編。

・双子の妹を亡くしたアラサー女史の婚活話
・夏大好き少年のほろ苦い初恋
・交通事故で母を失った保健室通学女子中生
・隣のシングルマザーと引き寄せあうバツイチ男
・両親の離婚で父親の再婚相手とギクシャクする少年

ハッピーエンドなし、ひどいバッドエンドはないけれど、ほろ苦さが残る余韻。「幸せに暮らしましたとさ」じゃない物語の哀しさは、登場人物たちへの同情や憐憫とともに、何故かちょっと自分への罪悪感を伴うねんなぁ。読書が自分との対話であって良かった、こんなの人と一緒に体験できない感情である。

2024年4月21日

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読書状況 読み終わった [2024年4月21日]
カテゴリ 日本小説

口論の末、疎遠になった彼氏の松木が歩道橋の上でもみ合ってケンカした上と意識不明の重体で、救急病院に搬送されたと知らされる清瀬。しかし清瀬にはどうしても彼氏に暴力をふるうイメージはなかった。一体どんな事件に巻き込まれてしまったのか?

松木は小学校時代からの大親友いっちゃんが、ある女性に恋をしたことから、いっちゃんに読み書きを教えることとなる。松木は祖母から書道を仕込まれていた過去を持ち、いっちゃんはディスレクシア(発達性読み書き障害)を持っているが、惚れた女性が小説を読んでいたことと、文通することになったことで一念発起し読み書きを練習するという。

清瀬パート、松木パートが交互につづられ事件の全容が見えてくるミステリー。しかし張られた伏線を回収していくうちに見えてくるものは、犯人が誰か?とかトリックがどうだったとか、そういう類ではない。

「きちんとしなさい」とか「丁寧に生きなさい」とか「我が子への深い愛情」とか、一般的に正しいとされていることをツラいと思っている人が少なからずいること。そういう人がいることを理解できずに不幸になる人もいるということ。

成功は積み上げること、成長は隙間を丁寧に埋めていくことだという話を聞いたことがある。障碍や環境等の理由でどうしても隙間を埋められない人もいる。その埋められない隙間に黒いものが根差す人もいるし、隙間を認めつつ他のことを積み上げて成功を志す人もいる。

最後のパートで清瀬はある人物に「もっと早く出会えていれば」というのだが、そのことで徹底的に嫌われてしまう。松木は別のある人物を避けてお互いに徹底的に縁を切っている。そこまで嫌われ嫌う人がいる同士の愛情は、それでも羨ましいくらいに尊く美しく映った。

キチンと生きれる人はそのキチンとさで、優しく生きれる人はその優しさで、卑怯に立ち回れる人はその卑怯さで、精一杯生きればいいということなのだと思う。

俺はきちんと生きること、優しく生きること、相容れない価値観を賛同せずとも許容すること、そういう隙間を埋めていきたいと思った次第。

2024年4月7日

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読書状況 読み終わった [2024年4月7日]
カテゴリ 日本小説

高校図書室の司書が主人公の書籍系日常ミステリー短編集。本屋さんミステリーの大崎さん、同じ書籍扱いでもこういう設定で来るんかぁ。なるほど学園ものにもなり、書籍系にもなるってこと。

司書さんはワトソン役で名探偵は出入りの書店員さん。出てくる本は、百人一首から東野圭吾、青山美智子までさすがのチョイス。

しかし、中田永一=乙一からのトリック崩しなんか、本好きしかピンとこーへんのちゃうか?俺は大好きやけど(笑

2024年4月1日

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読書状況 読み終わった [2024年3月31日]
カテゴリ 日本小説

仕事を辞めてしまった美月、母親の友人の市子のところに転がり込み、次の仕事や将来をなんとなくボヤボヤと模索する現状にやってくるコロナ禍と自粛社会…と、こう書くとなんだか、居心地の悪い小説のようだが。

実は「虹色天気雨」「ビターシュガー」の続編になる。美月が転がり込んだ市子は美月の母親も同然の人だし(これが分かってないと行動の意味が違ってくる)、美月の周りの人たちの破天荒な言動も懐かしくじわじわ思い出せてくるし。

コロナが社会に与えた影響はここまで計り知れない。東日本大震災とコロナが日本に与えた衝撃、経済大国だったはずが先進国の輪からも外れかける体たらくだが、それでも俺たちは生きていくわけだし、どうせい生きていくなら、たくましくふてぶてしく面白おかしくきちんと生きていこうと思った次第。

ところで、この小説のレビューを読んでると思った以上に評価が低く、その内容も「アラサーが勢いで仕事辞めて周りが助けて楽しく生きるみたいな非現実的でご都合主義な本」みたいなことが多いようだが…。やっぱ前2作読んでおいた方が…この本の魅力は続編であることが前提だと思う。

2024年4月10日

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読書状況 読み終わった [2024年4月9日]
カテゴリ 日本小説

久々の三羽省吾は、勢いノリノリ系じゃなく、社会派ミステリー系の小説。岐阜の山奥で発見された死体遺棄事件を追う三流週刊誌の記者宮治。独特の嗅覚で「何かある」と感じた宮治はこの事件を執拗に追ううちに、兄弟と家族を巻き込んだ真相に迫っていく。ミステリーと書いたが、核心は兄弟妹や家族の在り方を問うところ。犯人探しやトリック崩しをしている中で見えてくる家族の関りが深くて愛おしくて読ませる。

週刊誌とワイドショー的なものが大嫌いで、出来るだけ自分から遠ざけておきたいと思っている。それでも読書、それも小説読みを趣味としている以上、文春や新潮といった出版社にはお世話にならざるを得ないことにジレンマを感じている。

そんな中で読んだこの本、フィクションだということで大きく間引いても、ゴシップ記事を書く記者にも家族がいて生活があって矜持を持って生きているんだということが分からなくもない…という気になった。

それでもやっぱり、週刊誌とワイドショーは嫌い。求めてるヤツらがいるから存在してる必要悪なのかもしれないが、反吐が出るほど嫌いである。

2024年4月5日

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読書状況 読み終わった [2024年4月4日]
カテゴリ 日本小説

小川洋子の工場見学記。
ネット記事やテレビの特番などで良く出てくる施設見学とは一味も二味も違うのは、小川洋子の教養と知性に根差す視線の面白さと優しさ、それに言わずもながの文章力。

グリコにしても北星鉛筆にしても、小川洋子じゃなければ「はいはい、知ってます。もう観たことあります」で素通りしていると思う。ある程度の大人になれば、経験とか知識とかが邪魔して、見知った(と思い込んでいる)ことを改めて知りなおそうとしない。所謂「擦れた」大人になってしまうのだ。

この本を読んでみると、擦れることの勿体なさを痛感する。出てくる職人さんは毎日毎日何十年も同じ仕事を繰り返す、その中で少しずつ修正改善を繰り返し、理解のレベルから無意識のレベルで作業を行い、やがて神業と至るようになる。競技でいう「フロー」の状態を毎日維持し続けることができるまで当たり前の仕事をやり続ける。

飽きることもあるだろうし、目新しいことに心奪われることもあるだろうし、他人の芝生の青さに嫉妬することもあるだろうけど、そこに甘んじて「擦れる」ようにはならなかった職人各位、著者の小川洋子だって何年も何文字もとてつもない数の文章を書き続けた人である。そういう人々が層をなしている社会こそ、成熟した過ごしやすい世の中なのかもしれない。

2024年3月31日

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読書状況 読み終わった [2024年3月29日]
カテゴリ エッセイ

無人島で起こった殺人事件。スマホは通じるし本土からそう遠く離れているわけでもないが、その島にいる生き残った人たちは助けを呼ぶことも、協力して犯人捜しをすることもできなくっている…犯人が定めた生き残るためのルール「十戒」によって。

よくもまぁ、こんな設定のクローズドサークルミステリーを考えつくもんだなと関心する。少々強引な設定でもあるし、その強引さが推理小説臭さを伴っているので、ミステリーファンで無ければ少々辟易するのかも知れないが。

***こっからさき要注意***




で、だ。
まさかまさかの「方舟」である。そりゃそうだ、タイトルで分かるだろ。旧約聖書つながりだ。これ以上は書けない、書かない。

読者にも戒めが課せられているようなものだ。一つ言っておくなら「方舟」→「十戒」→「ネタバレサイト」で読み終わった俺は、ぼんやり寝ぼけた休日の午前、冷や水ぶっかけられたみたいに覚醒してしまったくらいの衝撃だった…チュドーン!!!

2024年3月24日

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読書状況 読み終わった [2024年3月24日]
カテゴリ 日本小説

ミステリー要素もあるけど、犯人捜しではなく、幽霊となった女性の過去と恨みの原因を探るのがメインテーマ。幽霊という存在を現実のものとして認めていることと、死人との交信を謎解きの要素に加えてる設定があるので、ホラー小説なんだろうなぁ。

とはいえ、ゴリゴリに怖い小説ではなく、辛く悲しい女性の人生を探っていく物語。謎を追う雑誌記者の韜晦もというより中年渋み系小説の雰囲気。

嫌いではない、良い小説なんだが、ホラーでもミステリーでもどっちかに振り切ってないからなのか、若干消化不良の感じもあり。電車の運転手目線で描く冒頭のシーンの感じを残してくれたらという気もする。

2024年3月28日

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読書状況 読み終わった [2024年3月27日]
カテゴリ 日本小説

機龍警察シリーズがあんだけ面白いんだから、月村了衛の警察小説が面白くないわけがない。
登場人物たちの個性、ド派手アクション、現実の現代社会とリンクする問題点。読ませ処盛りだくさん。

映像で観たいが、下手に映画化するとギャップに絶望するヤツやなぁと、特に実写映画化すると、無駄なラブコメとか下手なゲスト交えて、駄作に陥る未来が見える。

続編の可能性を残して終わったので期待したい。機龍警察の前日譚と重なるとかの展開もありうるかと。

2024年3月24日

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読書状況 読み終わった [2024年3月23日]
カテゴリ 日本小説

妻を奪われ、鉄道工事の労力にされてしまった中国人の殺し屋ミン・スー。工事現場から逃げ出したミンはアメリカ大陸を横断し、西海岸にいる妻を取り戻す復讐の旅に出る。

道中の仲間達が異能者だったり、物語中の死の描写がマジックレアリズムっぽかったり、荒涼とした開拓時代のアメリカ大陸を舞台にした物語の雰囲気は最高なのだが、それだけで読ませる作品。

ミステリー界隈で話題になった作品だったので、仕掛けや伏線回収に妙な期待を抱いてしまったが、その手の構成は皆無だったのが残念。

旨いこと映画化したらすごく面白いロードウェスタン活劇になるとは思う。

2024年3月20日

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読書状況 読み終わった [2024年3月20日]
カテゴリ 海外小説

有名女優が運転する車が深夜交通事故にあう、一人同乗していた俳優に不倫疑惑が巻き起こり、その女優は自殺する。

俳優の妻と子は女優所属の芸能事務所やマスコミにカチコミをかけられ東京のアパートから逃げる。四万十、家島、別府、仙台。逃げるだけでなく生活を整えようとするが、そのたびに芸能事務所の陰がつきまとう。

松本人志の事件、ジャニーズの件、皇室の妙な報道合戦…この手のワイドショーと週刊誌が群がるような事件報道が大嫌いで吐き気を催してくることすらあるので、裏表紙を見てこの本はスルーしようかと思った。

が、辻村深月が凡百の轍をそのまま踏むわけがなかった。ロードノベルであり、成長譚であり、ミステリー要素もあって、最後には(若干出来すぎながらも)家族小説として結実させ、ページ数の割に盛りだくさんの読ませどこを持たせた良作に仕上げてくれている。

覚悟を決めて生きるということ、背負うものがあるからこそ自立するし、助けを借りる勇気も要る。
手を差し出す側でも手を差し伸べる側でも、どちらになってもいい。少なくとも苦労している人を揶揄しあざ笑う側にさえならなければよい。

2024年3月22日

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読書状況 読み終わった [2024年3月21日]
カテゴリ 日本小説

呉勝浩3冊目、短編集は初めてだが、さすがに上手い。
タイトルを見て「ちょっとヤラレ系のM系小説だったら苦手かもな」と警戒したんだが、そういう風味はありつつもちっとも苦手じゃない話で良かった。ミステリー的なオチもしっかりついてたし。

他全部で6編の短編を収録しているが、どれも面白い。クセというかちょっとだけ捻りが加わっているのが、癖になるんやねぇ。ストレートすぎると飽きるし、捻りすぎると選り好みが分かれやすい。その合間を絶妙に縫っている感じ。

でも、やっぱり、呉勝浩は長編。長編を読みたい。早く爆弾回ってこんかなぁ

2024年3月16日

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読書状況 読み終わった [2024年3月15日]
カテゴリ 日本小説

シミタツ節が円熟味を増して帰ってきた!
訊けば、御歳86歳にして書いた傑作国産ハードボイルド。年齢を聞かずして読んで「変わってないなぁ」と感じていたのだが、登場人物たちの大半が60歳以上、それでも自分より年下ってことだからなぁ。

ハードボイルドって言うても、派手なアクションシーンは後半を除きほぼなし。それでも登場人物たちの生き様だけで十分ストイックで渋くて危険な香り。介護職の家族思いの60代おっさんがこんなにカッコ良く描けるってのは、ほんまシミタツならでは。

しばらく時代小説に傾倒されてはったようだが、現在舞台の小説もまた描いてほしい、もちろん量産とはいかないだろうからマイペースでOKOK。
読み損ねてきた時代小説も追いかけていきたいと思う。

2024年3月14日

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読書状況 読み終わった [2024年3月13日]
カテゴリ 日本小説

久々の高村薫、初めての高村コラム集。

こういう硬派な政治への意見、少し前までは世の中にいっぱい溢れていたように思う。新聞にしてもテレビラジオにしても、市井(床屋談義や呑み屋の論客)にも、こういう風に情勢を憂い考える習慣が途切れたのはいつからだったのだろう?

日本が貧困化した原因には複合的な要素が絡まっていて、そこからの脱出もまた、一筋縄ではいかないのかもしれない。でも俺たち一般人が絶望して考えるを諦めることは、良くない傾向を助長するんじゃないかと思う。

政治や経済の動向が今の方向でいいのか考えること、違和感を感じたら改善できるのか考えてみること、その中で微力でも自分には何ができるのか検討してほんの一歩でも実践してみること。

絶望に身をゆだねて「適当でエエわ」と考えず行動せずにいた30年の結果が今の絶望感と貧しい日本なら、絶望に抗い考えちょっと行動してみてもいいんじゃないか。

汚職まみれのクソじじいどもと心中する運命に、ちょっとくらい抗ってみたらどうだ?と高村薫は言っているのだと思う。

2024年3月12日

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読書状況 読み終わった [2024年3月11日]
カテゴリ エッセイ

ホロヴィッツの「スーザンシリーズ」(で良いのか?ピュントシリーズだと作中作のシリーズだし、アランシリーズとは呼びたくないような…)第2作。

前作「カササギ殺人事件」もすごかったが、続編なんてどう描くねん?と思っていた本作はもっとすごいことになっている。と言っても、アクションがオーバーになるとか、事件の規模がデカくなるとか、敵や犯人のレベルが上がるとかの類じゃなく、純粋にミステリーとしての構成がとんでもない発想と完成度に仕上がってきてるのだ。

前作同様、現在進行形の事件の謎解きに作中作の小説が大きく絡んでくる仕組み。詳しくは書けないが、作中作にヒントはすべて隠されていて、ヒントの示唆は現在パートにきちんと記されていて、それなのに最後まで読まないとトリックが読めなかったし、読めばトリックに納得できた。

得心の度合いがとんでもない、極上のミステリー。そりゃ話題にもなるし、売れるわなぁと納得の一作。早くも次のホロヴィッツ作品が読みたくなってきたぞ。

2024年3月10日

読書状況 読み終わった [2024年3月9日]
カテゴリ 海外小説
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