古畑任三郎のような、犯人からの視点で話が進む倒叙ミステリ。めちゃくちゃ面白かった。ガッツリのめり込んだ。
こんなに読者を味方につける殺人者はなかなかいない気がしている。
高校生・秀一は、勉強が得意でちょっと斜に構えている感じだが母と妹思い。
クズ描写が清々しい義父から家族を守るため、完全犯罪を行う決意をする。
とても面白かったのが、殺害のアイデアのヒントが教科書から出てきたり、国語の引用が非常に多く見られたりするところ。
私が一番好きなのは「山月記」の引用だ。
発狂から虎になってしまった李徴の独白を自分と重ねる秀一。
自分の意識が徐々に無くなり、虎になっていく恐怖。秀一自身が殺人者(虎)になっていく恐怖と重なる…
そこを義父を人と見ずに、クズを始末するだけ、家族を守るため、と自分を奮い立たせる。
秀一の事が好きなヒロイン・紀子との関係も切なかった。利用しようと近づいたが、本当に惹かれてしまう。しかし、犯罪に気づかれ彼女を深く傷つけてしまう。
あと紀子がコナン君並みに鋭い。観察眼あるし、警察官とかになるべき。
秀一は勉強は出来たかもしれない。しかし全てにおいて想像力が足りなかった。
実際に人を殺すとはどういう事なのか。
嘘をつき続ける人生とはどんなものなのか。
未熟さ、切なさ、若さ、惨めさ…
湘南の爽やかな描写と相まって胸が締め付けられる。
誰かこの、本当は弱く傷つきやすい少年を守ってやって欲しかった。
そして最後に出てくるトラックの運転手さん。
ただかわいそう。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年6月17日
- 読了日 : 2020年6月17日
- 本棚登録日 : 2020年6月16日
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