流転の海 第6部 慈雨の音

著者 :
  • 新潮社 (2011年8月31日発売)
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感想 : 44
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流転の海シリーズの6部です。
このシリーズの本は数年に一冊ペースでしか出版されないので、いつも読み始めは前の話がどうだったか忘れてます。
だから読んでいる内に以前の話を思い出しながら読むという形になりますが、前回の5部は珍しくはっきりとストーリーを覚えてました。

5部で主人公の熊吾は駐車場の管理人という職を得て、妻の房江は小料理屋で働く。
それで魔窟の如き「蘭月ビル」に住む熊吾の妹に一人息子の伸二を預ける。
何故ちゃんと覚えていたかというと、前作のラストが印象的だったからです。
その「蘭月ビル」に住む、いかにも癖のありそうな美少女が最後に出てきて、その少女の佇まいに海千山千の熊吾ですらゾクッとなる。
というその場面が強烈に記憶に残っていて、多分次はその少女が熊吾一家に大きく関わると思ったからです。
でも想像は全く外れてしまいました。
名前がちょこっと出てくるだけで実際に登場しない。
肩透かしにあった気分でした。

毎回、熊吾一家は何かと事件に巻き込まれますが、今回は特に大きな出来事もなく静かな印象を受けました。
だけどそれは嵐の前の静けさのような気もします。
今回からまた熊吾は中古車のブローカーという新しい事業を始めます。
それに伴う新しい事件や人間関係が生まれそうだし、多分例の美少女も後々登場しそうな予感がします。
とにかく、今回はタイトルの慈雨の如く静かに淡々と流れるお話でした。

前回は房江さんは我慢強くて賢い人だと思いましたが、それに加えて今回は優しく思いやりのある人だと思いました。
彼女の唯一の欠点は生家が貧しく教育を受けられなかったという猛烈な劣等感があることですが、長所に比べたらそんなもの、短所とも思えない程度のものだと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宮本輝
感想投稿日 : 2013年7月20日
読了日 : 2011年10月15日
本棚登録日 : 2013年7月20日

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