日本沈没 上 (光文社文庫 こ 21-1)

著者 :
  • 光文社 (1995年4月1日発売)
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本棚登録 : 163
感想 : 19

 1970年代に出版されたベストセラー。小松左京の代表作。

 この小説に関しては雑誌「S-Fマガジン」2006年4月号において、作家の小川一水氏が素晴らしい論評を書いているので、いいのかわからないけど勝手に引用してしまおう。僕が言いたい事のほとんども簡潔にまとめられているので僕が説明するよりずっといいはず。以下引用。
≪小松左京的な愛国心が好きだ。/小松左京的な愛国心は、俯瞰によってもたらされる。 … 昨今の日本でつぶやかれる、陰湿で高慢なナショナリズムとはずいぶん違う。侵略に対抗して団結する心ではなく、あまりにも広い外界に出たとき少しだけ振り返って安らぐ心、それが小松さんの愛国心だ。≫

 タイトルでもう内容をすべて言い表しているんだけど、地球の地殻変動によって日本列島が海中に沈没してしまうというストーリーである。
 70年代、変革期の社会不安を背景にこの小説は爆発的に売れ、映画化も大ヒットを記録した。「日本沈没」という言葉がそれ自体で一つの単語のようになるほどこのタイトルは知名度を獲得している。それほど衝撃的だったのである。

 よく比較されるのだが、ユダヤ人のように国土を持てず世界をさ迷うという経験を日本人はしたことがない。なので、文字通り国土が消滅してしまうという空前の事態に多くの日本人は戸惑い、うろたえ、そして泣き叫ぶ。
これは日本人という人々のアイデンティティを探る上でとても興味深い。普段意識することはないが、土地・自然・故郷というものが我々の意識形成に絶大な影響を与えているのである。
 故郷というぬくぬくした場所に閉じこもって、世界に向かってきゃんきゃんと吠えてみた所でそれは母親に守られていきがっている子供とそうかわりはない。日本及び日本人について語るとき、本書は重要な意味を持つ。

 そして小松左京の描く日本人はカッコいい。誰もがこの未曾有の災害に真っ向から立ち向かい、前向きに、よりよい方向に未来を導くために、がんばっている。絶望に打ちひしがれながらもあきらめたりしない。相次ぐ地震や噴火、津波などの災害から必死になって生き延びようとする人々の姿は感動を誘う。

 地殻変動の過程を描いた理論的な部分に関しては、正直言って難しすぎてよくわからない。ただ出版当時には修士論文に匹敵すると評価されたそうなので、かなり科学的な裏づけはしっかりしているようです。まあSF小説なんてのはどれだけ大ボラをもっともらしく見せるかがキモなので、そこらへんは完璧です。

 この版は95年に阪神大震災が起きた時に光文社文庫から緊急出版されたものだ(最近は小学館文庫から出ている)。
 今年の東日本大震災を見てもわかるように、災害大国日本では大きな災害が起こるたびにこの本が思い出されるのだろう。どんなに衝撃を受けてもみんな忘れてしまうのだから。

 ところで実はこの物語、もっと長い話だったのを出版社の要請で上下二冊の分量にまとめられたのだそうだ。そう言われてみるとなるほど、ずいぶん駆け足でストーリーが展開していて、未消化な部分が多いようだ。
 そしてこの本で書かれなかった膨大なストーリーは、『日本沈没 第二部』のタイトルで谷甲州との共著で後に描かれることになる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年10月30日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年7月29日

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