ピエール・ニネが芸術品のように美しいです。特に冒頭の、若くて繊細で、傑出した才能がありながら、それを世に出す方法をまだ知らないでいるナイーヴな青年の演技が鳥肌たつほど素晴らしかったです。
お辞儀の仕方、メガネを触る仕草、視線の移動のさせ方、そういった一つ一つが細やかで、セリフ以外での役の作り方が本当に上手。
プールサイドで片脚だけを立てて寝ている彼が、そばに来たピエール・ベルジェの気配に目を開けて、あの大きな瞳でサングラス越しに微笑み、それから恥ずかしそうに目をそらすところは、背筋がぞくぞくしました。
話の内容は、サンローランの半生を描いたもので、サンローランとベルジェがバックについていることもあって、ドキュメンタリーとノンフィクション映画のあいだのような作られ方をしているなと感じました。
悲劇とも喜劇ともラブロマンスともカテゴライズできない、「人生」そのものを扱ったような映画で、大変好感が持てました。1970年代には恋愛関係は破綻していたそうですが、ベルジェの方はサンローランを深く深く愛していたのだろうなと感じました。
他の男性(カール・ラガーフェルドとシェアしている愛人!)を「愛している」と言いながら「でも生涯の男は君だ」と言われ、でも「寄生虫」「ろくでなし」と罵られ。暴言を吐かれて、アパートを去っていかれたあとのベルジェの表情がなんともいえなくて、でも、憐れみを感じるには強さを秘めていて。
映画自体は、サンローランの死後に作られていますが、これが公開されたときには、ベルジェはまだ存命で、自分がこういった暴言を吐かれていたと、あんな風にきらびやかな世界の裏側に辛くて苦しい時間があったと、全世界に知らせられるのは、やっぱり内なる強さがないとできないと思います。
サンローランという才能の輝きと、ベルジェという人間の強さを見る映画なのかもしれません。
一番最後のショーで、ベルジェの手の甲にサンローランがキスをします。そのときにベルジェはハッと目をみはるのですが、そのすぐ後、モデルと共にランウェイに出たサンローランはモデルの手の甲にもキスをします。あれは、ベルジェのことはモデル同様、ビジネスに関わる大事な人物として敬意を払っている、つまり恋愛感情はもうないということを示しているのかな…とぼんやり思いました。
- 感想投稿日 : 2017年10月13日
- 読了日 : 2017年10月13日
- 本棚登録日 : 2017年10月13日
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