ゲリラに拘束されている人質8人が語った話をまとめた短編集
主人公は南米の反政府ゲリラ組織に拘束された8人の人質と、その会話を盗聴していた政府軍の諜報部員。プロローグでは人質全員が死亡した事が語られている。
しかし、彼らが語った思い出話は拘束中とは思えないほど、穏やかなものである。少し不思議な雰囲気は漂うが、誰にでも起こりうるような話ばかりだ。また、主人公達は性別や年代は違えども皆、普通の人だ。特殊な生まれや特技は何もない。彼らが少し不思議な体験を通して得たちょっとした心境の変化を、小川洋子さんは丁寧に描いている。
そんな少し不思議だけれど、普通の人の普通の話という設定と細やかな心理描写によって、私たちは自然に登場人物達に親しみをもち、共感を覚える。だから、この本を読み終わった後には、それぞれの話から得られる暖かい感情だけでなく、彼ら全員が死んでしまっているという事に対する静かな悲しみを感じるのだ。そして、その悲しみが、この本をただの優しい物語ではなく、より感情の深くに訴えかけるものにしている。
この物語にはハラハラする展開や大きなどんでん返しは存在しない。しかし、読後に穏やかな気持ちを得ることができる。私の中では人に勧めたい本の一つである。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2018年3月15日
- 読了日 : 2018年3月15日
- 本棚登録日 : 2018年3月15日
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