宿命 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1993年7月6日発売)
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本棚登録 : 19112
感想 : 1454
5

【感想】
東野圭吾の作品って、タイトルがシンプルかつディープなものばかりだ。
タイトルにすごく拘りを持っているんだろうなという作品が多い。
この「宿命」もその1冊で、主人公の勇作と晃彦は勿論、須貝正清や上原先生や父の興司などそれぞれの登場人物達の「宿命」も読んでいて感じさせられた。

また、「あとがき」に書いてあったが、東野圭吾は本作品においては特に最後の一行に特にこだわり、むしろ最後の一行を書きたいが為に、全文章を考えたんだとか。
それぐらい素晴らしいラストだったと読んでいて感じた。

物語は小学生の頃からの宿敵である警察官の勇作と医者の晃彦に焦点が合わされ、1つの殺人事件を絡めてストーリーが進行していく。
勇作に何か恨みでもあるのか?というくらい嫌味でスペックの高い晃彦少年と、晃彦少年にすべてにおいていつも負けてしまう勇作少年。
少年時代からの確執を本事件の解決によって清算しようとする勇作の気概からして、もう少し殺伐としたラストになるかと思ったが、、、

タイトルセンスと作中の大ドンデン返し、事件そのものの完成度の高さ、そして自他ともに認めるラスト一文の構成力の素晴らしさ。
色んな要素の詰まった名作でした。


【あらすじ】
高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。
男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。
刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。


【引用】
p68
公平だな、と勇作は思った。死ぬ時は公平だ。考えてみれば、人間の世界で唯一フェアな部分かもしれない。


p75
自分とは何の関わりもないのに、どうにも心に引っかかる人間というのがいる。
その人物に魅力を感じているわけでも、恨みがあるわけでもない。
それなのにどういうわけか、その顔を見ると、心が俄かに動揺するという相手だ。
勇作にとって、瓜生晃彦がまさにそういう存在だった。
友人になりたいとかいう明朗な心理ではない。何となく気に入らない奴だ、という陰湿な種類のものだった。


p82
勇作はこれまで、人に後れをとったことなど殆どなかった。勉強にしても、運動にしても、絵や書道についてもだ。
もちろんその陰には彼なりの努力があった。ところが彼が苦労して手に入れてきたトップの座を、瓜生は鼻歌でも歌いながら奪いとっていくのだ。


p90
サナエさんの死に、瓜生親子が関係しているのか?だがそれは、どういう関係だ?
この疑問が、勇作にとって瓜生晃彦をさらに特別な存在にしたのだった。


p192
このノートを見て、勇作は何とか真相を確かめたいと思った。それが興司の望みでもあるように思えたからだ。
興司は出世はしなかったが、事件のたびに全力を尽くし、常に納得できる形で処理していった。おそらく唯一の心残りが「脳外科病院怪死事件」であったはずだ。

やってみよう、と勇作は思った。今度の事件が実際どの程度サナエ事件に関係しているのかは不明だが、とにかくやれるだけやってみよう。
(この事件は俺の事件だ。俺の青春がかかっている。)
ノートを握りしめ、勇作は心の中で叫んだ。


p334
それにしても、サナエさんも実験台にされた一人だったとは。
覚悟したことだったが、やはり勇作の推理は的中していた。
瓜生和晃がサナエの身元引受人になったことや、彼女がレンガ病院に入院していたこと、そして彼女の死にも、実験に関する秘密が絡んでいるに違いない。
さらに彼女の知能に障害があったこと。
あれはもしかすると、実験の後遺症か何かではないのか?サナエも元々は普通の大人の女性だったのではないのか?


p357
「須貝正清の父親も実験に加わっていた。ところが凍結された後も、密かに自分が再開させることを考えていたらしい。親子とも負けず劣らずの変人だよ。
おそらく正清は父親から、あの計画を須貝家の手で再開させるよう命じられていたのだろう。半ば執念みたいなものさ。
だから僕の父親が倒れて自分の天下が近づくと見ると、着々とその準備を始めたりしたんだ。」


p366
「サナエさんは双子を産んだんだ。そして一人は瓜生直明に、もう一人はやはり妻が不妊症の夫婦に引き取られた。二人は二卵性双生児で、ふつうの双子のように瓜二つというわけではなかった。」

「高校二年の時、自分に兄弟がいることは知った。しかしそれが誰なのかは教わらなかった。まさか君だったとはな。」
晃彦は嘆息し、しみじみとした調子で言った。


p368
晃彦は何か眩しいものでも見るように目を細めた。
「自分にどういう血が流れているのかは関係ないんだ。重要なのは、自分にはどういう宿命が与えられているかだ。」
その言葉は、勇作の頭の奥底に響いた。同時に、つい先ほど瓜生家に引き取られた晃彦を妬んだことを恥じた。
その宿命のために子供らしさを失い、人生の殆どを犠牲にしなければならない立場を、どうして羨むことができるのだ。


p371
「全敗だ」
勇作は呟いた。「えっ?」と晃彦が聞いたので、「何でもない」と首を振った。

「最後にもう一つ聞いていいかな?」
「なんだい?」
「先に生まれたのはどっちだ?」
すると暗闇の中で晃彦は小さく笑い、
「君の方だ」と、少しおどけた声を送ってきた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年6月28日
読了日 : 2019年6月28日
本棚登録日 : 2019年6月28日

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