【感想】
阿部寛主演の映画版「麒麟の翼」が大好きで、DVDは今までに5回以上は観ました。
「久しぶりに原作も・・・」と思い、早速読み返した次第です。
ホント、何て言うか・・・
加賀恭一郎の事件に対するアプローチの仕方が本当に大好き!!
ただ単に事件の真相を究明するのではなく、事件の経緯や人間関係であったりを事細かに調べ上げてとことん準備して、事件の深部にアクセスする。
単純に犯人を特定だけでは終わらない加賀恭一郎のスタイルに、1ファンとして目が離せませんね。
(ただ、一人の刑事がここまで1つの事件に執着する時間があるの?と思ってしまうけど・・・笑)
この小説もご多分に漏れず、加賀は徹底的に真実を明らかにしていく。
紐解いていった真実のその先には、昔自分たちが犯してしまった水難事故(過ち)を隠匿された事で、結果的にそれよりも大きな過ちを犯してしまった一人の少年が居た。
過ちを隠匿した教諭に対し、「生徒さんたちが正しく公式を覚えられるよう、指導してやってください」と言い放ったのは、かなり強烈な皮肉だったな・・・
加賀恭一郎シリーズはあと1作でお終いかぁ・・・・
なんだかとっても寂しい・・・・
【あらすじ】
寒い夜のこと。
日本橋の欄干にもたれかかる男を巡査が目撃する。
男の胸にはナイフが刺さっていた。どうやら男は死にかけた状態でここまで歩いてきて、力つきたようだ。
その後、男は病院で死亡してしまう。
加賀と松宮も参画して事件の捜査が始まる。
その中、事件直後に若い不審な男が現場から逃走中にトラックにはねられ、昏睡状態に陥っていることが分かった。
「彼が人殺しをするはずがない」と否定する恋人。しかし、彼の持ち物からは被害者が持っていた財布と書類鞄が発見される。
そして、被害者とのある関係が浮上したことから、警察は不審な男を犯人と断定し裏付け捜査を進めてしまう。
一方、被害者が部長を務めていた会社で「労災隠し」が発覚し、その責任が被害者にあることが公になる。
このことで被害者家族は一転して世間・学校からのバッシングにさらされてしまう。
果たして、若い男は犯人なのか。被害者はなぜ瀕死の状態で日本橋まで歩いてきたのか。加賀と松宮はその真相に挑む。
【引用】
1.。「俺たちのすべき事は、真実を明らかにしていくことだ。固定観念や先入観を捨て、事実だけを拾い上げていけば、全く想像もしていなかったものが見えてくることもある」
2.「労災隠しは犯罪です。良いことでは決してありません。恨まれる事もあり得ます。しかし、殺されても仕方のない人間なんて、この世には一人もいません」
3.「こんな中途半端な形で事件を終わらせても、誰も救われない。何としてでも、真相を突き止めるぞ」
4.「もし世の中を甘くみているのなら安心だ。どこにも光がないと絶望している方が、余程心配です」
5.そこにはブログのトップページが表示されていた。カラフルなイラストが散りばめられている。
おい、といって加賀が画面の上の方を指した。それを見て、松宮はぎくりとした。
ブログのタイトルは、「キリンノツバサ」となっていた。
6.「先生は、何の教科を教えておられるのですか?」
糸川は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「数学ですが・・・」
「ははあ、中学の数学というと公式がいっぱい出てきますね。ピタゴラスの定理とか、解の公式とか」
「ええ、それが何か?」
「公式を覚えれば、色々な問題が解けるようになる。ところが最初に間違った事を覚えてしまうと、何度でも同じ間違いを犯す事になる。そういうことってありますよね」
「そうですね」糸川は、この刑事は何を言いたいのだ、と言わんばかりの顔だ。
「生徒さんたちが正しく公式を覚えられるよう、指導してやってください」
7.東京駅の中央改札まで香織を送った。松宮からバッグを受け取ると、彼女は二人に向かってお辞儀をした。
「今日はどうも有難うございました。それから、冬樹君の疑いを晴らしてくれた事、一生忘れません」
「そんなことは忘れてもいい」加賀が言った。「忘れちゃいけないのは、その子のために何があっても負けないと決心した事だ」
【メモ】
麒麟の翼
p138
「上の人間がどう判断するかなんて事は、下の者は考えなくていい。俺たちのすべき事は、真実を明らかにしていくことだ。固定観念や先入観を捨て、事実だけを拾い上げていけば、全く想像もしていなかったものが見えてくることもある」
「なぜ青柳さんがこの街に通っていたのかを突き止めなければ、あの家族…青柳親子にとっての事件は終わらない」
p157
あの、と史子が立ち上がり、二人を交互に見た。
「労災隠しって、そんなに悪いことなんですか?それで恨まれて、殺されても仕方のないぐらい悪いことなんでしょうか?」
奥さん、と加賀が低く言った。
「労災隠しは犯罪です。良いことでは決してありません。恨まれる事もあり得ます。しかし、殺されても仕方のない人間なんて、この世には一人もいません」
p168
「きっとお偉方は、これで一件落着だと考えるだろうな。被疑者死亡で書類送検、証拠不足も何の其の、不起訴処分になって事件は終了だ。仮に八島が犯人でなくても死人に口なし。どこからも文句は出ない。」
「そうなったら、何もかも謎のままだ。青柳さんが何のために七福神巡りをしていたのかも。警察の仕事としては、それでいいのかもしれないけど・・・」
「よくはない」加賀は短く言い放った。
「こんな中途半端な形で事件を終わらせても、誰も救われない。何としてでも、真相を突き止めるぞ」
呟くような小声だが、決意を秘めた口調だった。
p242
「口先だけだって思ってますよね、きっと」香織は言ってみた。「世の中を甘く見ている、とか」
加賀が彼女のほうを向いた。
「もし世の中を甘くみているのなら安心だ。どこにも光がないと絶望している方が、余程心配です」
p298
「もしかすると、なぜ武明氏が刺された状態で日本橋まで歩いたのかを、彼は気づいてたんじゃないだろうか?それはあの麒麟の像に関係している事で、父親に対する思いを一変させるようなものだった。そう考えると、彼の変貌ぶりにも説明がつく」
「麒麟にどういう意味があるんだろう?」
「わからない。だが、これだけは言える。麒麟の像は、武明氏から悠人君へのメッセージだったんだ。死を間近にした父から息子への」
p302
「もう帰っていいですか。俺、刑事さんの質問には何も答えられないと思いますから」
悠人君、と松宮は声をかけた。だが制するように加賀が小さく手を上げた。
「いいだろう。ただ、君の協力が得られれば、事件解決への早道に繋がると思っていただけに残念だ」
悠人は鞄を掴み、立ち上がった。ぺこりと頭を下げ、出口に向かったその後ろ姿からは、強固な意志が感じられた。
「どういうことかな。余程、自分にとって都合の悪い事でもあるんだろうか?」
「いや、そうじゃないな。自分のためだけなら、ああいう目はしないだろう」
「目?」
「あれは誰かを守ろうとする目だ。あの年代の若者がああいう表情を見せる時は、大人が何を言っても無駄だ」
p315
そこにはブログのトップページが表示されていた。カラフルなイラストが散りばめられている。
おい、といって加賀が画面の上の方を指した。それを見て、松宮はぎくりとした。
ブログのタイトルは、「キリンノツバサ」となっていた。
p320
「先生は、何の教科を教えておられるのですか?」
糸川は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「数学ですが・・・」
「ははあ、中学の数学というと公式がいっぱい出てきますね。ピタゴラスの定理とか、解の公式とか」
「ええ、それが何か?」
「公式を覚えれば、色々な問題が解けるようになる。ところが最初に間違った事を覚えてしまうと、何度でも同じ間違いを犯す事になる。そういうことってありますよね」
「そうですね」糸川は、この刑事は何を言いたいのだ、と言わんばかりの顔だ。
「生徒さんたちが正しく公式を覚えられるよう、指導してやってください」
p368
東京駅の中央改札まで香織を送った。松宮からバッグを受け取ると、彼女は二人に向かってお辞儀をした。
「今日はどうも有難うございました。それから、冬樹君の疑いを晴らしてくれた事、一生忘れません」
「そんなことは忘れてもいい」加賀が言った。「忘れちゃいけないのは、その子のために何があっても負けないと決心した事だ」
- 感想投稿日 : 2019年11月6日
- 読了日 : 2019年11月6日
- 本棚登録日 : 2019年11月6日
みんなの感想をみる