模倣犯(四) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2005年12月22日発売)
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感想 : 357
5

【感想】
疾走感あふれる3巻までにと比べると、やや物語全体の停滞感は否めないかな・・・
まぁ全体から見て箸休めな1巻ではあったが、それでも物語の随所に進展が見られた。
前巻まで同様、今まで点だった登場人物のそれぞれが、ようやく線となって繋がっていく様子が見て取れた。

そして、やはり読んでいて不思議なのが、「ピース」こと網川浩一と高井真由子がついに接触することだろう。
5巻のはじめについにTV出演するわけだが、ピースの狙いがまるで読めない・・・
というより、万が一TV出演している自分の声紋を取られて検査されたらどうするの??笑
メディアに自身をさらけ出すピースの狙いは何なのか、リスクについてどう思っているのか。
そして5巻にも及ぶこの物語自体がどのように終息を迎えるのか。
最後まで読めない展開に、ページを繰る手が止まらない!!

読んでいて高井由美子の狂気さに、「なんだコイツは」と一旦思ったが、高井和明は犯人じゃないもんね・・・
そんなこと思っちゃいけないな。
そして、有馬義雄が前畑滋子をに対して「ほかの誰よりも、あんたが一番の野次馬だ。あんたには、高井由美子さんを利用する権利なんかない。ましてや、あの子を責める資格なんかない」と罵ったように、世間の誰にも加害者家族を罵る権利なんてないよなぁ。
まぁ、そういった世間の批評が抑止力となって、理性が働いて起こらずに済む犯罪も多数あるのだろうと思うけれど。

ラスト1巻がどのように終了するか、今後も目が離せませんね。


【あらすじ】
特捜本部は栗橋・高井を犯人と認める記者会見を開き、前畑滋子は事件のルポを雑誌に連載しはじめた。
今や最大の焦点は、二人が女性たちを拉致監禁し殺害したアジトの発見にあった。
そんな折、高井の妹・由美子は滋子に会って、「兄さんは無実です」と訴えた。
さらに、二人の同級生・網川浩一がマスコミに登場、由美子の後見人として注目を集めた――。
終結したはずの事件が、再び動き出す。



【引用】
1.今回の事件の場合は、当の犯人たちがそろって死亡しているだけに、遺族の立場は余計に苦しいものになっていることだろう。
本来ならば犯人が背負うはずの重荷のすべてが彼らの肩に載せられてしまうからだ。

2.「ちょ、ちょっと待ってくれよ。逃げることないよ、僕だよ僕、網川だよ、君の兄さんの友達だよ。」
彼はそう言って、由美子を安心させようと、にっこり笑ってみせた。男には珍しい、こぼれるような愛嬌のある笑顔だ。
「名前より、あだ名の方を覚えているかな?君の兄さんとか友達には、僕、ずっと〝ピース〟って呼ばれてたからね」

3.「あんたはあんたの好きなようにやるがいいよ。だけども、高井由美子が高井和明の妹だから、どんな酷いことをしたっていいっちゅうことにはならないだろうが。
あの子が鞠子を殺したわけじゃないんだ。前畑さん、あんたと私はまるで逆じゃないか。
あんた、誰のためにルポなんか書いてるんだね?あんたこそ、私ら被害者の遺族の本当の気持ちなんか、全然わかっとらんのじゃないかね?そもそも、わかろうとしてないんじゃないかね?あんたには、そんな必要なんかないんだからよ」

「ほかの誰よりも、あんたが一番の野次馬だ。あんたには、高井由美子さんを利用する権利なんかない。ましてや、あの子を責める資格なんかないよ」


【メモ】
p53
栗橋浩美と高井和明。
そろって20代の若者。彼らがグリーンロードで死んだ時、日本列島全体が声を枯らして絶叫した。教えてくれ、こいつらが本当に犯人なのか、教えてくれ。

こういう事件には、スケールの大小はあれ、模倣犯が付き物だ。最初のうちは警察も断定を避け、慎重に構えていた。
この二人は、HBSの特番を観て、一連の連続女性誘拐殺人事件の尻馬に乗るチャンスが来たとばかりにバカなことをしでかした、ただのお調子者の殺人者である可能性もあると。
しかしその後、栗橋浩美のマンションの部屋から、右腕を欠いた白骨化した女性の遺体が発見されたことが発表されるに及んで、模倣犯の可能性は根こそぎ吹き飛んだ。

今や、栗橋浩美と高井和明というあの二人の若者が犯人であることを、日本国民の誰も疑っていないと言っていいだろう。


p128
あるいは、栗橋の共犯者は高井ではなかったのか?
その突飛な考えは、ときどきふと頭に浮かぶ。そのたびに、武上は首を振ってそれを退ける。彼の役割の内容は謎だが、彼がある役割を担っていたということは、すでに事実となっている。


p164
凶悪事件の犯人の家族が被る二次的な被害は、どんな白書の統計にもあがらず新聞報道もされない。しかし、厳としてそこにある。
今回の事件の場合は、当の犯人たちがそろって死亡しているだけに、遺族の立場は余計に苦しいものになっていることだろう。
本来ならば犯人が背負うはずの重荷のすべてが彼らの肩に載せられてしまうからだ。


p222
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。逃げることないよ、僕だよ僕、網川だよ、君の兄さんの友達だよ。」
彼はそう言って、由美子を安心させようと、にっこり笑ってみせた。男には珍しい、こぼれるような愛嬌のある笑顔だ。
「名前より、あだ名の方を覚えているかな?君の兄さんとか友達には、僕、ずっと〝ピース〟って呼ばれてたからね」


p312
・滋子と同業者との通話
「ねえ、あの二人には、何かお手本があったんだと思う?」と聞いてみた。
「そりゃあったでしょう」めちゃくちゃ自身たっぷりの断言である。
「なんでそんなにはっきり言えるの?」
「なんでって・・・だってシゲちゃん、人間てそんなに独創的な生き物じゃないよ。みーんな何かを真似っこして生きてるんだよ」

(中略)

わかったようなわからないような理屈だ。
滋子は手元のメモの上に「独創性」と書き、その上にバツ印をかぶせた。その脇に「特殊」と書いてクエスチョンマークを添えようとし、考え直してそれをマルで囲んだ。
「ねえ、彼ら、それを意識してたと思う?彼らにとってのお手本があるってこと?」

(中略)

電話を切った後も、滋子は一人で考え続けた。
参考・・・何かを参考にした。はっきり意識的に真似たのではないけれど、既存の何かをなぞった。何かに倣った。
・・・社会に受け入れられることのない肥大し過ぎた自尊心は、いつかは必ず、他者を殺戮し破壊する道を選択するという考え方そのもの?


p370
「あんたはあんたの好きなようにやるがいいよ。だけども、高井由美子が高井和明の妹だから、どんな酷いことをしたっていいっちゅうことにはならないだろうが。だって、あの子が鞠子を殺したわけじゃないんだ。前畑さん、あんたと私はまるで逆じゃないか。あんた、誰のためにルポなんか書いてるんだね?あんたこそ、私ら被害者の遺族の本当の気持ちなんか、全然わかっとらんのじゃないかね?そもそも、わかろうとしてないんじゃないかね?あんたには、そんな必要なんかないんだからよ」

「ルポを書いて、事件について解説するってことは、川のこっち側からもあっち側からも書くってことだ。どっちに肩入れしたって、まともなものは書けやせんでしょう。第一あんた、誰があんたのルポを読むと思っていなさるね?
(中略)
ほかの誰よりも、あんたが一番の野次馬だ。あんたには、高井由美子さんを利用する権利なんかない。ましてや、あの子を責める資格なんかないよ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年7月23日
読了日 : 2019年7月23日
本棚登録日 : 2019年7月23日

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