失敗の本質: 日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)

  • 中央公論新社 (1991年8月1日発売)
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5

【感想】
この本は現代の企業にも大きく当てはまる指南書なんだと思う。
タイトルの「失敗の本質」について、これ以上ないセンスを感じた。

作中、「演繹」と「帰結」という事で大きく分けられていたが、要するに目的が明確でない作戦などいくら精神論でカバーしようとも上手くいく可能性が低いという事がよく分かった。
また、内部の浸透性というか、そこに澱みがあればあるほど情報伝達「報連相」がうまくいかず、結局不得手になってしまうという事もよく分かった。
この点、決して大東亜戦争だけではなく現代の企業にも多く当てはまるモノだな。

その他にも、楽観論や敵の軽視、情報収集不足、戦況の曖昧な予測、不測の事態に対する迅速な対応欠如、共有不足、現場第一の機転がきかないなど、
多くの場面で自分たちの首を絞めるかのようなシステムが日本軍にはあった気がする。

1番怖いのは、幹部の多くが絶望的な状況を自分の口から言い出せなかったその環境ではないだろうか。
正確な情報を伝達できなければ、うまく行くものも行かなくなってしまうのは至極当然の話である。

日本はこの戦争から何を学んだのか。
どのような成長を遂げることができたのか。
自分の組織と重ねあわせても、今の会社は「失敗の本質」を分からずして進んでいるかつての日本軍に見えて仕方がない。


【内容まとめ】
1.開戦したあとの日本の「戦い方」「敗け方」が研究対象
 ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、沖縄の5つのケース

2.戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りを犯した方により好ましい帰結(アウトカム)をもたらす。

3.コンティンジェンシー プラン「不測の事態に備えた計画」
 トップダウンで目先の事に忙殺され、過去を顧みず、コンティンジェンシープランも熟考せず、
 十分かつ正確な情報のないまま猪突猛進を繰り返していた

4.日本軍は帰納的、米軍は演繹的
 演繹…既知の一般的法則によって個別の問題を解くこと
 帰納…経験した事実の中からある一般的な法則を見つけること

5.日本は「神話的思考」から脱し得ていなかった。
 精神力の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けているところがあった。
 また、トップに対して「もはや何を言っても無理だ」というムードに包まれていた。
 組織内の融和や調和を優先させ、合理性をこれに従属させた。


【引用】
第二次世界大戦、日本側の絶望感にあふれた恐ろしいレポート


本書は、なぜ敗けるべき戦争に突入したのかを問うものではなく、なぜ敗けたのか
開戦したあとの日本の「戦い方」「敗け方」を研究対象とする。

ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、沖縄の5つのケース


p37
・ノモンハン事件
作戦目的が曖昧であり、中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しなかった。
情報に関しても、その受容や解釈に独善性が見られ、戦闘では過度に精神主義が誇張された。

第一次世界大戦を経験しなかった日本軍にとって、初めての本格的な近代戦となり、最初の大敗北となった。
「やってみなければ分からない、やれば何とかなる」という楽天主義の日本軍に対し、ソ連軍は合理主義と物量で圧倒した。


p56
・戦果を挙げられない理由
①敵を軽侮しすぎている
②砲兵力不足
③架橋能力不足
④後方補給力不足
⑤通信能力不足
⑥任務荷重
⑦意気の不足

相手の事情、情報を十分に詮索せずに実施した攻撃が失敗するのは当然。
→しかし、思いきりの良さやスピード感もまた大切。結果論じゃない?

当時の日本軍においては、観念的な自軍の精強度に対する過信が上下を問わず蔓延していた。


p70~
・ミッドウェー作戦
海戦のターニングポイント
作戦目的の二重性や部隊編成の複雑性などの要因の他、日本軍の失敗の重大なポイントになったのは、不測の事態が発生したとき、それを瞬時に有効かつ適切に反応できたか否かであった。


p97
・ミッドウェー海戦
戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りを犯した方により好ましい帰結(アウトカム)をもたらす。
戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直面する状況を確信を持って予想する事ができない。
このような不確実な状況下では、ゲーム参加プレーヤーは連続的な錯誤に直面することになる。


p107~
・ガダルカナル作戦
陸戦のターニングポイント
失敗の原因は、情報の貧困と戦力の逐次投入、それに米軍の水陸両用作戦に対して有効に対処しえなかったからである。
日本の陸軍と海軍はバラバラの状況で戦った。


海戦敗北の起点がミッドウェー、陸軍が陸戦において初めて米国に負けたのがガダルカナル。
この戦闘以来、日本軍は守勢に立たされ続けることになった。


p141~
・インパール作戦
賭の失敗。
しなくても良かった作戦。
戦略的合理性を欠いたこの作戦が、なぜ実施されるにあたったのか。
作戦計画の決定過程に焦点をあて、人間関係を過度に重視する情緒主義や、強烈な個人の突出を許容するシステムを明らかにする。

徐々に悪化する戦局を打開し戦勢を挽回するための賭けとしての性格をも有していたが、莫大な犠牲(参加者10万のうち戦死者3万、戦傷3万、残兵5万のうち半分以上も病人)を払って惨憺たる失敗に終わった。

原因の大半は、作戦構想自体の杜撰さにあった。


p163
・コンティンジェンシー プラン
→不測の事態に備えた計画。
万一作戦が不成功になった場合を考えて、作戦の転機を正確に把握し、完敗に至る前に確実な防衛線を構築して後退作戦に転換する計画が必要。


p172
当時南方軍は、太平洋の急迫する戦局に備えフィリピンおよびニューギニアの防備強化に忙殺され、ビルマの戦況を顧みる余裕がなかった。
→今でも変わらないのでは?
トップダウンで目先の事に忙殺され、過去を顧みず、コンティンジェンシープランも熟考せず、十分かつ正確な情報のないまま猪突猛進を繰り返している気がする。


p178~
・レイテ海戦
→自己認識の失敗
「日本的」精緻をこらしたきわめて独創的な作戦計画のもとに実施されたが、参加部隊がその任務を十分把握しないまま作戦に突入し、統一指揮不在のもとに作戦は失敗に帰した。
レイテの敗戦は、いわば自己認識の失敗であった。


p178
レイテ海戦は、敗色濃厚な日本軍が昭和19年10月にフィリピンのレイテ島に上陸しつつあった米軍を撃滅するために行った、起死回生かつ捨て身の作戦。

当時の連合艦隊の8割に相当する艦艇を準備して、日本海軍が総力を結集して戦った事実上最後の決戦となった。
結果、日本海軍はこの海戦によって壊滅的な損失を被り、以後戦闘艦隊としての海軍はもはや存在しなくなった。
また、日本本土と南方の資源地帯とを結ぶ補給線が断たれる事となった。


p193
朝日新聞の誤報?
大本営による情報の不提示?
この日本側の戦果の過大評価ぎ、あとで見るようにその後のレイテ海戦に大きな影響を及ぼすことになるという事実。


p212
・レイテ海戦のアナリシス
レイテ海戦は日本海軍の惨敗、米国の圧倒的勝利に終わっている。
また連合艦隊の壊滅という決定的な失敗も日本側は行なってしまった。


p222~
・沖縄戦
→終局段階での失敗
相変わらず作戦目的は曖昧で、米軍の本土上陸を引き延ばすための戦略持久か航空決戦かの間を揺れ動いた。
特に注目されるのは、大本営と沖縄の現地軍にみられた認識のズレや意思の不統一であった。

大東亜戦争において硫黄島と共にただ2つの国土戦となった沖縄作戦。
日本軍約86,400名と米軍約238,700名が激突、戦死者は日本軍約65,000名、日本側住民約100,000名、米軍12,281名に達する阿修羅の様相を呈した。

死力を尽くして86日間に及ぶ長期持久戦を遂行し、破れたりとはいえ米軍に対し日本本土への侵攻を慎重にさせ、本土決戦準備のための貴重な時間を稼ぐという少なからぬ貢献を果たした。



p265~
【第2章】失敗の本質
・6つの作戦に共通する性格
ノモンハン事件、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄、いずれも日本軍が敗北。

1つの失敗が次の失敗、また次の失敗にという形で直接あるいは間接的に関連し合っている。

・6つのケースに共通して見られる作戦の性格
1.複数の師団あるいは艦隊が参加した大規模作戦であった。

2.作戦中枢と実行部隊の間、また実行部隊間にも、時間的・空間的に大きな距離があった。

3.直接戦闘部隊の高度な機械化、それに加えて補給・情報通信・後方支援などが組み合わされた統合的近代戦であった。

4.相手側の奇襲に対応するような突発的な作戦の性格はほとんどなく、あらかじめ策定された作戦に基づいてしか戦えていなかった。


p268
・曖昧な戦略目的
軍隊という大規模組織を明確な方向性や目標を欠いたまま指揮し、行動させることになった。
本来、明確な統一的目的なくして作戦は実施できない。

米国軍が劣勢にも関わらず勝利を収めたのは、暗号解読による日本軍の作戦を詳細に知り得ていたことに加え、目的を空母群の撃滅に集中し、「空母以外には手を出すな」と厳命していた。
戦力集中という点で有利な状況を生んでいた。

また、米国は戦争に対して、連合国と共同作戦を展開しえたのに対して、日本は同盟国の独伊との連携がほとんどできないままに終わった。


p277
日本軍の戦略志向は、短期的性格が強かった。
一つの決戦に勝利しただけで戦争が終結するのか、また万一敗北した場合にどうなるのかを真面目に検討していたわけではなかった。
確たる長期的展望のないままに、戦争に突入したのである。

山本五十六
「やれと言われれば、初め半年から一年は、随分暴れてご覧に入れます。しかし2年3年となっては、まったく確信は持てません。」
山本は日本には米国という大国を相手に長期戦戦い抜く力はない、なんとしても戦争は短期戦で終わらせなければならないと考えていた。


p283
・日本軍は帰納的、米軍は演繹的
演繹…既知の一般的法則によって個別の問題を解くこと
帰納…経験した事実の中からある一般的な法則を見つけること

日本は「神話的思考」から脱し得ていなかった。
精神力の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けているところがあった。
また、トップに対して「もはや何を言っても無理だ」というムードに包まれていた。
組織内の融和や調和を優先させ、合理性をこれに従属させた。

対して米軍のコンセプトは、演繹・帰納の反復による愚直なまでの科学的方法の追求であった。


p288
牟田口軍司令官、補給問題について
「なあに、心配はいらん。敵に遭遇したら銃口を空に向けて三発打つと、敵は降伏する約束になっとる」
結局食糧は敵に求めるという方針が押し通り、結果インパール作戦において食糧と弾薬の補給はほとんどなかったことが日本軍の敗北を決定づけ、さらにその損害を大きくした。


p322
陸海軍の統合的作戦展開を実現するという大本営の目的が十分達成できなかったのは、組織機構上の不備が大きな理由として挙げられる。
大本営令では、両軍の策応共同を図るよう命じていたが、現実には多くの摩擦や対立が生じた。


p325
・学習を軽視した組織
およそ日本軍には、失敗の蓄積・伝播を組織的に行なうリーダーシップとシステムも欠如していた。
日本軍の精神主義は、2つの点で組織的な学習を妨げる結果になった。
1.敵戦力の過小評価。敵にも同じような精神力があることを忘れていた。
2.自己の戦力の過大評価

また、対人関係、人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学びとろうとする姿勢の欠如が見られる。


これに対して米軍は、理論を尊重し学習を重視した。
「どんな計画にも理論がなければならない。理論と思想に基づかないプランや作戦は、女性のヒステリー声と同じく、多少の空気の振動以外には具体的な効果を与える事はできない。」


p339
目的の不明確さは短期決戦志向と関係があるし、また戦略策定における帰納的な方法とも関連性を持っている。
(帰納的…プラニングせず、経験則で動くという意。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 名作(再読の価値がある本)
感想投稿日 : 2018年6月4日
読了日 : 2018年6月4日
本棚登録日 : 2018年6月4日

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