冷い夏、熱い夏 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1990年6月27日発売)
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本棚登録 : 414
感想 : 51
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肺癌になり、五十歳で死んだ弟の一年ほどの闘病過程を「私」=吉村昭の視点から「事実そのまま」描い(───引用:解説)た長編小説。
医療技術や、告知の概念など今とは違う常識が興味深かった。

ノンフィクションとは知らずただ小説として読んだが、壮絶。
弟が衰弱し幻覚に囚われ苦しみ死へ向かう過程は胸が苦しくなるようなものだった。だが、「私」と双生児のようなといわれるほどの弟本人に癌であることをひた隠し、兄弟達にも妻にも隠し、悪化を隠し、嘘を言い連ね死の前に自分ひとりで葬儀を手配し、まんじりとしていてもどうにもならぬと仕事に出、弟が病状を悟らぬよう子供達に見舞いを禁じ、弟の友人が会いに来たのを病室に入れることを断りと、もうダメかもしれないとの連絡に何度も夜中に病院へ掛け、とひたすらに続く「私」の葛藤や蓄積する疲労、絶望感がなにより苦しかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年2月21日
読了日 : 2012年2月21日
本棚登録日 : 2012年2月21日

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